パラパワーリフティングアジア選手権、初の日本開催で大堂が銅メダル

パラパワーリフティングアジア選手権、初の日本開催で大堂が銅メダル
2018.09.19.WED 公開

9月8日から12日まで5日間にわたって開催された「北九州 2018 ワールド パラパワーリフティング アジア・オセアニア オープン選手権大会」。日本チーム唯一にして大きな意味のあるメダルをつかみ取ったのは、やはりこの男だった。競技歴21年、ロンドンパラリンピック6位(82.5kg級)などの実績を誇る43歳の大堂秀樹だ。

メダルを胸にし、「(メダルを決めた195kgの重量は)めちゃ軽かったです」とコメント。余裕を見せながらも、その目は涙でにじんでいた。

日本人でただひとり表彰台に上がった大堂

大堂が出場する男子88㎏級は大会4日目に行われた。今大会は日本で開催される初めてのパラ・パワーリフティングの国際大会だったが、ここまで日本勢のメダル獲得はない。リオパラリンピック日本代表で男子54㎏級の西崎哲男は6位、ロンドンパラリンピック日本代表の宇城元は男子80㎏級で失格だった。だからこそ、大堂は大会前に宣言していた自己記録更新よりも、チームのためのメダルにこだわった。

「この大会を北九州で開催するために本当に多くの人が協力してくれた。日本がメダルなしで終わったら、何のための開催なのかと言われてしまうし、第一人者である自分に責任があるのもわかっていたので……精いっぱい戦いました」

雄たけびを上げて気合いを入れる

体重で区分した階級で最も重い重量を上げた者がナンバーワンになれる。パラ・パワーリフティングは、非常にシンプルな競技だ。だが、3回の試技に知られざる攻防があり、実は大堂はその中の心理戦で試合を優位に進めていた。

196kgを自己ベストとする大堂は、一回目の試技で183㎏を完璧に挙げると、続く2回目は静まり返った会場で雄たけびを上げて191㎏を入魂の挙上。勝負の3回目は「200㎏」と申告していたが、試技の直前で重量を「195㎏」に変更した。それは、メダルを獲るための作戦だった。

「(銅メダルを争う)インドネシアのアント・ボイは過去の成績を見ても201㎏にチャレンジすることはないと思ったので、まずは200㎏で申請しました。そのとき、彼は196㎏で申請してきましたが、その後、自分が確実に挙げられる195㎏に変更したんです。彼が(変更できる制限数の)2回変更したのを見てから、僕も195㎏に変更。自分より弱い奴らには負けられない。もう、必死でした」

プレッシャーをかけられたライバルは失敗、一方の大堂は195㎏のバーベルを美しく上げ、IPC(国際パラリンピック委員会)の地区大会において日本人初のメダルをもたらした。

3回目の試技を成功させ、喜びを爆発させた

8位に終わったリオパラリンピックの後、再起をかけて右肩を手術した。その後は「すごく調子がいい」と言い、今大会も5年前に非公認大会で記録した200㎏を超える自信はあった。

「200㎏を上げられる気力はあったけど……自己記録は次でいいと思った。今回はメダルを獲ることにかけたので許してください(笑)これから僕はもっともっと強くなりますよ」

最近は、京都のナショナルトレーニングセンター(競技別強化拠点施設)や東京の日本財団パラアリーナで合宿することが増えた。トレーニング時間を短縮する一方で、チームで練習することが刺激になり、競技力アップにつながっているというベテランは、こう決意を述べる。

「これが(東京パラリンピックへの)始まりです。(自力で出場できる目安の)207㎏を超えて、行きます、行けます」

不振を乗り越え、一回り強くなった男の言葉は、だれよりも頼もしかった。

メダルを手に写真撮影に応える大堂

8つの世界記録を生んだ日本の魅せる演出

今大会は、男子49kg級で140㎏を記録したイザディ・アリ・レザ(イラン)のジュニア世界新、女子45kg級で114㎏の世界記録をたたき出したグオ・リンリン(中国)にはじまり、男女合わせて計8個の世界新記録が誕生した。

会場となった北九州芸術劇場

「食事やホテルもよかったし、なによりパラリンピックのような演出が素晴らしく、気持ちが上がった」
男子97kg級で231kgを記録して優勝したソルヒポラバンジ・サエドハマド(イラン)が言うように、日本のホスピタリティや演出も好記録続出に貢献した。

会場となったのは、スポーツ施設ではなく、北九州芸術劇場だ。選手の表情を見られる大スクリーンと映像の演出、観客の手拍子を呼ぶBGMに、会場の雰囲気をつくるDJ……観るスポーツとして楽しむための仕掛けがちりばめられており、実際に入場する選手の背後に当たる照明は選手をヒーローとして映し、記録に挑戦する選手が入場する際に焚かれたスモークはこのあとの試技への期待を倍増させた。

選手をフォーカスする照明や心臓の鼓動を感じさせる効果音は、観客のみならず、選手の気持ちを盛り立てた。

閉会の挨拶をする日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田理事長

今大会を東京パラリンピックに向けた運営のリハーサルとして誘致した日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進理事長は、安堵の表情を浮かべて振り返る。
「運営はバタバタしたところもあったが、それは次のテストイベントにつなげていくとして、地区大会で世界記録がこんなに出ることはなく、嬉しいことが多い大会になった。競技の魅力を伝えるためのショーアップもリオパラリンピック以上のものになり、今後のチャレンジに向けたひとつのきっかけを作れたのではないかと思います」

今大会から東京パラリンピック出場のための争いが本格的にスタートした。屈強な選手たちによる強く美しいパフォーマンスの数々が、東京パラリンピック本番への期待を膨らませたことは間違いない。

text by Asuka Senaga
photo by Tomohiko Sato

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