障がいのある人も、ない人も同じ目線を楽しめるカヌーの魅力を伝えたい! 日本障害者カヌー協会 上岡央子さん

障がいのある人も、ない人も同じ目線を楽しめるカヌーの魅力を伝えたい! 日本障害者カヌー協会 上岡央子さん
2018.10.23.TUE 公開

アスリートはだれでも日々黙々と自分と向き合い、ひたむきな努力を続けています。しかし競技はひとりきりでは成立しません。選手の熱い思いをバックヤードで支えてパラカヌーの認知拡大に奮闘する上岡央子さんに、カヌーの魅力をうかがいました。
≪前編はこちらから≫

<パラアスリートを支える女性たち Vol.03>
うえおか・ひさこ(39歳) 
一般社団法人日本障害者カヌー協会 事務局長


上岡さんが事務局長を務める「一般社団法人日本障害者カヌー協会」の始まりは、今から約27年前。あるひとりの車いすユーザーが「カヌーに乗ったときの開放感を、多くの人に伝えたい!」と感動した、その想いに共感する仲間が集まって現在に至ります。

脳性まひや知的障がいの人も楽しめるレクリエーションとしての障害者カヌーと、下肢障がいのある人が競技者として世界を目指すパラカヌー。パラカヌーは2016年のリオ大会から正式種目になったばかりですが、協会では現在パラカヌー選手の発掘・育成を行いながら、障がいがあってもなくてもだれでも一緒に楽しめる“カヌーを通じたコミュニケーションの輪”を広げることも目的としています。どちらについても「まずは知ってもらいたい!」と、上岡さんは普及のために奔走する日々を送っています。


200mのスプリントタイムを競う、水上の短距離走

経理事務から体験会運営、広報宣伝活動まで一手に引き受ける上岡さん。この日はパラカヌーの拠点とする土浦のマリーナ(ラクスマリーナ)で、プチ体験会を開催。カヌーの中でどう座れば体が安定して、どんなふうにパドルを扱えば前に進むのかまで、懇切丁寧にレクチャーをしてくれます。ちょうど増田汐里選手も姿を見せ、全長5m20㎝の競技用カヤックですべるように沖に向かって進む後ろ姿を見送りながら、参加者もこわごわとパドルを握り、沖に向かってカヌーを漕ぎ出します。

重さ20kgのカヌーを艇庫から運び出すのも上岡さんの仕事。

−−水面に出るまではちょっと怖いなと思っていたのですが、漕ぎ方のコツを教わったらスイスイ進んで、風も気持ちよくて。いつのまにか怖さも自然と消えていました!

楽しんでいただけたようで、よかったです! 段差も坂道もない水の上は、究極のバリアフリーなんですよ。水の抵抗を最小限に抑えた競技専用カヌーで全力疾走する、水上のF1と呼ばれるスプリントの爽快さは一度見たらトリコになります。競技を初めてご覧になる方には、カヌーを体験してから観戦することをお勧めしたいですね。水上がいかにバランスがとりづらく繊細な技術が必要なのかを実感できると、選手のすごさがわかって、1分足らずのレースも十二分にその価値を楽しめると思います。

障害者カヌーに出合って“これだ!”と思った

初めてカヌーと出合った、古座川でのキャンプのひとこま  ※写真は本人提供

−−上岡さんが障害者カヌーを知ったのはいつ頃ですか?

今から4年ぐらい前ですね。当時は大阪で古着屋のオーナーをしながら、障がい者の外出支援のガイドヘルパーのバイトや、夜勤介助もしていたんです。手伝っていた自立生活センター(CIL)のレクリエーションで和歌山県の古座川に1泊2日でカヌーをしに行こうという話になり、そこで初めて障害者カヌーというものに出合いました。

まず、川の水がものすごくきれいでびっくりしました。ゆるやかに流れる川面に2人乗りのカヌーを浮かべて、いつも介助している女の子と一緒に乗ったんです。 そしたら、ふわっと水の上に浮かぶ初めての感覚があって、さらに車いすを押しながら出かけるときとは違う、いろんなものが彼女と同じ目線で見える世界が。「あっ、あそこになんかおるで!」「どこどこ?」って、“あそこ”をさす指先の高さが一緒なんです。

街歩きのときはいつも彼女が私を見上げながらの会話になるので、目線の高さの違いが気になっていたのですが、この日は障がいのあるなしに関係なく同じ目の高さで同じ心地を共有できた。美しい自然の一部となって川下りする楽しさにも魅了されました。「カヌーって面白い。これこれ、この感覚よ!」って興奮したのを思い出します。

宣伝のためにTシャツやグッズを作りまくる

それをきっかけに日本障害者カヌー協会のボランティアスタッフを始めて、競技としてのパラカヌーと、楽しむための障害者カヌーの両方に携わるようになりました。2016年に事務局の移転に伴い、私も東京事務局で活動することになったのですが、最初は何から手をつけていいのかわかりませんでした。まずは未整理だった帳簿の片付けから始めて、パソコンにたまっていた膨大な問い合わせメールを開いては返信し、コツコツと情報の交通整理を行いました。

次に着手したのは、協会でカヌーのサポートをしてくれるスタッフ用のマニュアルの制作です。任意団体時代からの知識やノウハウが集約されていた簡易なものがあったのでそちらをカスタマイズし、きちんと印刷して冊子に仕上げました。

−−マニュアルに「車いすからカヌーに乗り換える際の移乗法」などの具体的なサポートの説明に加えて、障がい別に解説があったり、「個別性の尊重」「自己決定の尊重」などの心理的な要素や、コミュニケーション理論のようなことまで盛り込まれていて驚きました。

“障がいのある人の特性や習性を知る”ことって、本当に大切だと思うんです。よくボランティア講習会に行っても「何をしていいのかわからない」「本人に聞いていいのか、わからない」という方が多いんですね。そこで、障がいのある人に「どんな目配りや気配りが必要なのか」、声をかけるときの例文まで載せて説明をしています。これを読めば、「障がい」「カヌー」「サポート」のことが少しでも理解してもらえるのではないかと思っています。

−−Tシャツやノベルティグッズも、たくさん作られたと聞きました。

「知ってもらうために宣伝をしよう。そのためにTシャツやグッズをつくりたい!」と考えたんです。パラサポの助成金を申請し、ロゴは自分で考えました。色については、もともとカラフルなものが多いカヌー用ウエアのイメージとは違うものにしたいと、初代のTシャツはカーキ色に。速乾性の生地で作りました。配ってみたら思いのほか好評で、「ふだんも着たい」という声に応えて、コットン素材で白も作成。カヌーの体験会で参加者特典としてプレゼントしたり、協会へ寄付していただいた際のお礼の品としても大活躍しています。

私たちの協会では、パラカヌーのことを「パラマウント(最高の)チャレンジカヌー」と呼んでいるんです。自分にとって最高のチャレンジができるスポーツが、カヌーなんだと。ひとりでも多くの人にその魅力を知ってもらいたくて、全国各地で体験会を行っているので、興味をもたれた方はぜひ参加してみてください。サポートをしてみたいという健常者の方も障がい者の方も大歓迎です。お待ちしています!

text by Mayumi Tanihata
photo by Yuki Maita(NOSTY)

一般社団法人日本障害者カヌー協会
https://www.japan-paracha.org/
*カヌーに乗ることができる体験会は随時開催

障害者カヌーについて詳しくはこちら

障がいのある人も、ない人も同じ目線を楽しめるカヌーの魅力を伝えたい! 日本障害者カヌー協会 上岡央子さん

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