-
-
Sports /競技を知る
-
-
パラリンピック2大会連続金メダルから1年。自転車競技の現状は?

2021年の東京2020パラリンピックで自転車競技の舞台となった伊豆ベロドローム。当時のポスターやユニフォーム、公式マスコットが飾られた会場で、4年前にロードで金メダルを獲得した女王が世界新をマークし、話題をさらった。

2025全日本選手権自転車競技大会-トラック・パラサイクリング。8月24日に個人タイムトライアル、25日に個人パーシュートが行われ、その初日に杉浦佳子が1km個人タイムトライアル(C3)で1分16秒475の世界記録をマークした。
「最年少記録って二度とつくれないけど、最年長記録ってまたつくれますよね」という名言を思い起こす活躍。表彰台で見せた笑顔に胸がすく思いがした。

パリ後の主戦場はロード
世界新記録樹立のアナウンスが流れると大きな拍手が沸いた。杉浦は客席に笑顔で手を振りながら「今は調子が悪い」と考えていたという。約2ヵ月前に同会場で行われた「2025 Challenge The IzuVelodrome」で記録した1分16秒323には届かなかったからだ。だからこそ、翌日の個人パーシュートでは「今できることを意識した」。同会場でたびたび練習を重ねていた以前とは異なる状況の中、自身も驚く大会新で大会を終えた。

パリ2024パラリンピックでは、個人ロードレース(C1-3)で金メダル。その後、日本パラサイクリング連盟の強化方針により、ナショナルチームから外れ、現在は実業団のロード大会を主戦場とする。
「障がい者だからって、パラサイクリング(の世界)だけにいなくてもいい。そう考えて、今は実業団レースに出場していてリーダージャージを狙っている。健常者の中で表彰台に立ち、障がい者でも努力と工夫で健常者と同じくらいの力が出るんだと知ってもらえたら面白いかなって」
来年2月には、自身が企画した「杉浦佳子杯・第1回インクルーシブ自転車レース成田下総」を開催。パラリンピック2大会連続金メダリストは、まだまだ見る者を楽しませてくれそうだ。

若手も自己ベストをマーク
今回の全日本は、直後にベルギーでロード世界選手権があり、パラリンピック3大会出場のエース川本翔大は出場していない。
そんな中で存在感を示したのが、強豪・日本大学自転車部に所属する19歳の亀田琉斗だ。1km個人タイムトライアル(C5)で1分10秒189の日本新をマーク。4km個人パーシュート(C5)でも4分58秒905の日本新で連日の優勝を飾った。
亀田は生まれたときから左前腕が欠損しており、アメリカンフットボールを経て、2021年にパラサイクリングの世界へ。練習拠点である日本大学の自転車部は、全日本や国体で好成績を収めている仲間が多いといい、「とても刺激になっています」。

もともとロードで使っていた義手を、1年ほど前からトラック種目でも取り入れ、姿勢が安定。ハンドルを引く動作も可能になり、スタートのタイムが速くなるなど、用具の変化が成長の要因のひとつになっている。
C5クラスは世界のレベルが高い。今年はベースアップに努め、来年から本格的に国際大会に参戦したいと話す、伸び盛りの若手に注目が集まる。
育成指定選手では片足で漕ぐ中道穂香が2種目(C2)で自己ベストを更新し、成長をアピール。今大会で公式戦デビューを果たしたタンデムの山路喬哉、今大会はパイロット不足で出場がかなわなかった陸上競技の福永凌太とともに、同会場で開催される愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会に出場できるか。

現役トップスイマーであり、パリパラリンピックで日本代表選手団の旗手を務めた西田杏も、自転車競技で初めての公式戦。「緊張した」と話すが、2種目(C1)ともに日本新をマークした。
自転車競技はクロストレーニングとして始めた。
「水泳の専門はスプリント種目(50mバタフライ)だが、障がいの特性上、中長距離の練習も必要になる。水泳と同時に陸でも心肺機能を鍛えたいという思いで始めました」
本職でも4月に自己ベストをマークし、早くも自転車競技参戦の成果を実感しているようだ。

ナショナルチームの沼部早紀子ヘッドコーチは、二刀流や競技転向組に期待を寄せる。
「若い選手や競技未経験者を国際レベルにするには8年以上かかると思っているが、他競技に取り組んできた選手であれば、3~4年で強化することは可能。時間をかけて育てる選手と、一気に強化する選手の両方の強化を並行して進めることが必要だと考えています」

「東京大会からパリ大会の間は強化選手の強化はできたが、育成から強化にかけての部分が足りない反省があった」と沼部HC。現在は「発掘と育成に注力する体制であり、戦力としてはかなり下がっている状態」と話す。
アジアパラや3年後のパラリンピックでは、ひとりでも多くの日本代表の姿が見られることを願っている。
text by Asuka Senaga
photo by X-1