Bリーグ選手が被災地・能登へ。バスケによる復興支援が取り戻した子どもたちの笑顔「自分もこんな大人になりたい」
48年ぶりに自力でパリ2024オリンピック出場を勝ち取るなど、近年躍進を遂げファンを魅了し続ける日本の男子バスケットボール。そのプロリーグであるB.LEAGUE(以下、Bリーグ)は、2024-25シーズンの累計観客動員数が480万人を超えて過去最高を記録し、ますます盛り上がりを見せている。
しかし、Bリーグの選手たちが人々を魅了しているのは、コートの中だけではない。震災の被災地の訪問など、社会貢献活動でも多くの人々を勇気づけ、笑顔にしている。その活動内容や、能登半島地震で被災した子どもたちが語った心温まる言葉などを紹介する。
行くべきか迷いもあった、震災から半年後の訪問
2024年1月1日、能登半島を未曾有の大地震が襲った。それから約半年後の6月、Bリーグは復興支援活動「With能登」を立ち上げ、日本バスケットボール選手会と共に、被災地である珠洲市・輪島市・七尾市の小学校を訪問。炊き出しのほか、バスケットゴールやボールの寄贈、さらに選手と子どもたちが2対1や3対2で対決をしたり、プレゼントをかけたフリースロー対決をするなどの交流も行われた。その時の様子をBリーグ事業企画グループの井坂万里さんは、次のように振り返った。
「被災した皆さんが少しでも辛い日常から離れて、みんなで楽しめる時間を作ることができたらいいなという思いで訪問をさせていただきました。最初は震災から間もない時期でしたから、自宅が損壊していまだに避難所暮らし、仮設テント暮らしをしている人たちもいました。そうした状況で、私たちの活動は果たして子どもたちに喜んでもらえるのかという不安も正直ありました。でも実際に行ってみると、子どもたちが笑顔で楽しんでくれていて、行ってよかったなと感じました」(井坂さん、以下同)
選手たちの訪問を喜んだのは子どもたちだけではない。輪島中学校を訪れたときのことだ。体育館ではちょうど避難者向けに設置された段ボールハウスを片付けているところだった。

「『片付けるにしても年寄りしかいなくてねえ』という声が聞こえて、それをたまたま聞いていた選手たちが『じゃあ、片付けますよ』と言って、皆さんであっという間に片付けてくれたんです。お年寄りの皆さんは、すごいね、よかったねと喜んでくださって。あとは、選手たちを見たおばあさんが『こんなイケメンを久しぶりに見た』と、笑顔で言ったりして、その時だけでも、気持ちが明るくなるというか、皆さんが喜んでくれたのが印象的です」
横浜アリーナでプレー! 笑顔を取り戻した子どもたち

実は選手会による能登訪問の1ヵ月前にも、「With能登」の一環として、あるイベントが開催された。それは被災地の中学校でバスケットボール部に所属している子どもたちを「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-24」に招待するというもの。そこではBリーグの選手とコーチによるバスケットボールクリニックを実施したほか、実際に選手がファイナルを戦った横浜アリーナのメインコートで紅白戦を開催したそうだ。
「もともと能登はバスケットボールが盛んで、強豪チームもある地域です。それが、地震によって集団避難をしたり、引っ越しを余儀なくされたりして、チームが解体されてしまったケースもあります。さらに体育館は避難所として使用されているので、バスケットボールをするような環境ではないという話を伺いました。
そこで、少しでも希望を持ってもらえたらという思いから、この企画を準備させていただいたんですが、みんな横浜に来るのはほぼ初めてで、都会の風景に緊張してカチンコチンになっていました。でも選手たちの協力のもと、本番のファイナルコート上での試合では、しっかり3ポイントも決めるほど、子どもたちも積極的に楽しもうというような雰囲気に変わっていきました」
そんなふうに、子どもたちが久しぶりに思い切り体を動かして笑顔でいる姿を見て、学校関係者の方が「こんな光景が見られるとは思わなかった」と涙を流していたそうだ。
選手会の発案で被災地訪問へ

こうした復興支援活動は、実はB.LEAGUEが2016年の設立当初から取り組んでいる社会的責任活動「B.LEAGUE Hope(B.HOPE)」の一環だ。B.HOPEには「PEOPLE(人類)」「PEACE(平和)」「PLANET(地球)」と、3つの領域があり、それぞれの領域で、クラブ・選手・ファン・地域・パートナー企業の方々を巻き込み、共にSDGsの実現を目指したアクションを推進している。
たとえば、「PEOPLE(人類)」では、障がいのある子どもとその家族を試合に招待して、スポーツを通じた相互理解、共に手を取り合える社会の実現を目指すなどの活動をしている。また、「PLANET(地球)」では、気候変動対策(CO2削減)や、循環型社会の実現を目指した地球に優しい活動に取り組む。そして、「PEACE(平和)」は、復興支援、街づくり、防災にまつわる活動。まさに能登復興支援がこれにあたる。
「私たちは、単にバスケットボールの試合をお届けするのではなく、オフコートでも社会が抱えるさまざまな課題解決に向けてアクションを起こしていくという思いから、B.HOPEをスタートさせました」

能登の復興支援も旗振り役はB.HOPEだが、参加や関わり方については各クラブ、各選手に任せているという。2025年6月には、「With能登」の活動として二度目の能登訪問が実現した。特に能登半島の場合、震災からわずか9ヶ月後に被災地を豪雨が襲い「二重被災」が発生。選手会からは「自分たちが行って喜んでもらえるなら、支援を続けましょう」という言葉があり、今年の訪問にも繋がったという。
訪問当日、石川県出身の選手をはじめ、さまざまなクラブの選手が被災地に駆けつけた。震災は一瞬のできごとだが、真の意味での復興には長い年月が必要になる。B.HOPEでは、被災地支援だけでなく、災害が発生した際に「備える人・動ける人・助ける人」が増えることを願って、さまざまな活動を続けていくそうだ。
井坂さんは、能登の復興支援で出会った子どもの、ある言葉がとても印象に残っているという。 「辛いこともあるけれど、自分も将来、こうした支援ができるような大人になりたい」
支援してくれるB.HOPEの選手やスタッフに対する感謝を伝える際、自分の未来に向けて語ってくれたこの言葉。「辛い経験を、しっかり自分の糧にしようとしていて、子どもたちは強いなって思いましたし、その強さこそが未来につながる種なのではないかと感じました」と井坂さんは振り返る。そして、未来をつくる子どもたちの心に、希望や強さの種を蒔く。それこそが、スポーツ団体が復興支援を続ける意義でもあるのだろう。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:B.LEAGUE






