女子高生が起業(!?)して作った注目の助け合いマークは、シャイな日本人ならでは

女子高生が起業(!?)して作った注目の助け合いマークは、シャイな日本人ならでは
2020.03.16.MON 公開

働き方や、女性の社会進出などが議論される近年、中高一貫教育の品川女子学院では、入学したての13歳から卒業までの6年間を通し、女性としてのライフデザインを考える「28 project」という面白いプロジェクトを実施している。

「28project」とは

28歳はそれまでに学んだことを社会に還元できる頃でもあり、出産年齢にリミットがある女性にとってはライフワークバランスを考える時期でもある。「28project」は、生徒ひとりひとりが28歳の自分のありたい姿を思い描き、それを実現するためには何が必要か、どう行動すべきかを模索し、理想とする未来に向かっていくプロジェクト。

このプロジェクトの中で今回注目したのが「起業体験プログラム」。実社会で起業するのとほぼ同じ過程を経て、高校生たちが事業展開を繰り広げるというもの。企業理念の決定から出資金集め、IR報告など大人も顔負けのリアルさなのだが、このプログラムを通して女子高生たちが生み出した、あるマークが注目を浴びているのだ。

まずは社長をはじめ5名の取締役を選出

左から、4年E組の森田さん(会計長)、児玉さん(社長)、倉持さん、小川さん(ともにマネージャー)

中高一貫校の品川女子学院では女性のターニングポイントともなる28歳をひとつのゴールとし、中学1年生から高校3年生までの6年間を通して、さまざまな学びをしていく。中でも大きなイベントが、毎年9月に行われる“白ばら祭”と呼ばれる文化祭。

同校の4年生、5年生(一般的な高校の1年生、2年生)は、4月になるとすぐに各クラスで社長、会計長、マネージャーなどの「取締役」を選出。その後、企業理念、企業名を決定し、クラスが一丸となって9月に行われる文化祭での出店を目指す。 ただし、出店といっても単なる模擬店ではない。なんと各クラスが立てた事業計画の内容が審査され、その順位によって出資金が支給されるという。場合によっては、その金額が数十万円になることも。

その具体的なお話を4年E組の社長・児玉さん、会計長・森田さん、マネージャーの倉持さんと小川さんに伺った。

小川さん(以下、小川):役員が選出され事業計画が決まると、出資金をもらうために各クラスプレゼンをするんですが、審査をしてくれるのは実際に金融系の企業やコンサル会社などに勤務している保護者の方たちです。一般の企業が銀行から融資を受けるような感じで厳しく審査されるので、とても緊張します。

森田さん(以下、森田):審査の結果、希望していた金額を満額出資してもらえない場合も、学校から借り入れを受ける白ばらファンドという制度や、プレゼンを聞いてくれた別のクラスや学年の生徒に株を発行して出資してもらうという方法もあります。事業で利益がでたら、株を買ってくれた人にきちんと配当も支払います。

児玉さん(以下、児玉):出資してもらっているので、途中で何度かIRレポートを作って、事業の経過を報告します。必要な資料も全部自分たちで作るんです。

こうした一般企業で行われているような仕事を、品川女子学院の生徒たちは授業と並行して行っている。しかも彼女たちは授業、起業活動のほかに、部活動や生徒会活動もしているというから驚きだ。

気になる4年E組の事業は?身近な気づきから生まれた「i-sign」

2019年の白ばら祭で4年E組が行ったのは「i-sign(アイサイン)」というマークの発表と、このマークを利用したグッズの販売。「i-sign」とは、「ヘルプマーク(※)の存在を知っていますよ」「助けますよ!」ということを知らせるマークだ。イラスト左側の赤いキャラクターが障がいのある人やサポートを必要としている人で、右側の青いキャラクターがそうした人たちを助けているというデザイン。このマークが今、新聞の記事になるなど注目を浴びている。

※ヘルプマークは、街中や交通機関等で、援助や配慮を必要としている方々が、そのことを周囲の方に知らせることができるマーク。外見からは分からなくても、援助を得やすくなるように、東京都福祉保健局がみんなで助け合う社会を実現する為に作成。赤地に白のプラスとハートが描かれており、全国で活用の輪が広がっている。

児玉:そもそものきっかけは「てんかん」という持病を持っているクラスメイトの「ヘルプマークをもっと多くの人に知って欲しい」という一言でした。てんかんは、見た目ではわからない病気なので、何か困ったことがあった時に不安らしいんですね。そこからヒントを得て、私たちは「少しの優しさと勇気から安心が広がる日常の手助け」という企業理念を作ったんです。

森田:その次に「iknow!」という企業名を考えたんですが、この名前の「i」は英語で「私」を意味する「i」と、「助け合い」の「あい」。それに「知っている」の「know」をつけて「私は知っているよ」というメッセージを込めました。最後の「!」には、ただ知っているだけじゃなくて、「アクションを起こす」という意味です。

小川:そこから今度は、ヘルプマークを利用している方たちにインタビューをしたり、校内でアンケートを取ったりして、ヘルプマークの認知度を上げるにはどうしたらいいかを話し合いました。

森田:話し合っていくうちに、「私たちはヘルプマークを知っています」っていうマークを作ればいいんじゃないかということになったんです。その時はまだ、グッズを作ることは決まっていなくて、まずはマークを作ってそれをさまざまな形で発展させていこうという話にまとまりました。

児玉:マークのことを世の中の人に知ってもらうには、クオリティの低いデザインではだめだと思ったんです。ですからプロのデザイナーさんに私たちの思いや、意図を説明して、商品としてきちんと販売できるものを作っていただきました。

倉持:クラスは私たちを含めて43人ですが全員の意見をまとめるどころか、このメンバーで意見が衝突することもあって、マークを決めるだけで2ヶ月もかかりました。

小川:朝早く集まったり、お昼もお弁当を食べながら相談したり。児玉さんと森田さんは、家に帰ってからも電話で話をしていたみたいで、朝まで話していたこともあったみたいです。とにかく大変だったけど、このマークのおかげでみんな仲良くなったよね。

小さな気づきとアクションが家族や友達の心を動かし、それが学外にまで広がりはじめた

マークが完成すると、今度はそれをどうやって広めていくかということが課題となった。校内でアンケートをとったところ、ヘルプマークを一番見かける場所は「電車内」という結果が出たが、同時に電車内ではスマートフォンを見ている時間が長いという回答も多かった。つまり、スマートフォンを見ているためにヘルプマークを持っている人に気づけないということだ。

小川:実際にヘルプマークを使っている人にもお話を伺ったんですが、みんながいつでも声をかけて欲しいと思っているわけではなくて、いざという時に助けてもらえればいいという人もいました。ただ、みんながヘルプマークの存在を知っているということが分かるだけで安心するそうなんです。

児玉:ですから「i-sign」を私たち自身が身に着けることから始めようということになって、たとえ電車内でスマホを見ていても「ヘルプマークを知っているよ」ということを周囲に知らせることができるように、スマホに付けるポップソケッツにすることにしました。あとは歩きスマホはよくないので、持ち歩けるトートバッグ。このふたつにマークをプリントして商品化することにしたんです。

こうして「i-sign」がデザインされたポップソケッツとトートバックが白ばら祭で販売され、多くの生徒や保護者にヘルプマークの存在を知ってもらうことができたと言う。白ばら祭は無事に終了したが、その後、彼女たちにある変化があったそうだ。

森田:実はこの事業を始めるまで、私もヘルプマークのことはよく知らなかったんです。今まで電車内でお年寄りや障がいのある方に席を譲ったりしたことはありましたが、ヘルプマークを意識したことはありませんでした。

倉持:でも「i-sign」を作ってからは、今までは見えていなかったヘルプマークが自然と目につくようになって、何か困っていないかなとか意識するようになりました。

児玉:私は家族にもヘルプマークのことを説明して、今は家族みんなが「i-sign」の入ったグッズを使ってくれていますし、白ばら祭でも「いいマークだから、私もいろんな人に広めるわ」と言ってくださる方がいました。みんな無関心なのではなくて、知らないだけなんですよね。だから、今回のように心からの思いを伝えて気づいてもらえれば、人を動かすことができるんだということを、知ることができました。

小川:私たちがこのマークを作ったことで、他のクラスの子のお母さんから「サイトを作るなら手伝いましょうか」と言ってもらったんです。

森田:電車の中でもマークを見た人から「i-sign」でしょ?と声をかけられたことがあって、ヘルプマークが日常の中で話題にのぼるという、私たちの思い描いていたことが実現したのが嬉しいです。

小川:だから興味を持ってもらうって大事だなと思いましたし、私たちの気づきやアクションで世界が変わるんだなということを実感しました。

SDGsの目標達成に必要なのは、身近な課題に目を向けること

近年多くの企業が本腰を入れ始めているSDGsでは、ジェンダーの平等や、障がいのある人も含め、誰ひとり取り残すことなく、さまざまな点で平等になることを目標の一つに掲げているが、その方法について試行錯誤を続けているケースが少なくない。
だが、品川女子学院の生徒たちは身近な課題の解決に取り組むことで、自然とその方法に気づき、SDGsの目標達成への一歩を踏み出している。
何から手をつけたらいいのか、どうすればいいのかを頭でっかちになって考えるだけでは、SDGsの目標は達成できない。まずは、自分自身が知ろうとすること、気づくことが目標達成への大きな一歩となるのではないか。

SDGsとは

国連に加盟するすべての国が、2015年から2030年までに、貧困や飢餓、不平等、エネルギー、気候変動などに対処しながら、誰も置き去りにしない持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
経済、社会、環境の分野で、17のゴール・169のターゲットから構成される「持続可能な開発目標(SDGs)」として、2030年に向けて世界的な優先課題および世界のあるべき姿を明らかにし、共通の目標やターゲットを軸に、貧しい国も、豊かな国も、中所得国も、すべての国々に対して、豊かさを追求しながら地球を守ることを呼びかけている。
政府、企業および市民社会が、その力を結集し、あらゆる形態の貧困を終わらせるために経済成長を促しながら、教育、健康、社会的保護、雇用機会を含む幅広い社会的ニーズを充足させ、地球の限界を超えない範囲に収まるよう気候変動と環境保護にも取り組むことを全世界に要請している。
※国際連合広報センター:持続可能な開発のための2030アジェンダ(外部リンク)

品川女子学院「iknow!」:公式Instagram

参考サイト:東京都福祉保健局 ヘルプマークHP


text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
photo by Yuji Nomura

女子高生が起業(!?)して作った注目の助け合いマークは、シャイな日本人ならでは

『女子高生が起業(!?)して作った注目の助け合いマークは、シャイな日本人ならでは』