【冬季パラ競技に挑戦】元アルペンスキーヤー戸田雄也、初めてのチェアスキー~後編~

【冬季パラ競技に挑戦】元アルペンスキーヤー戸田雄也、初めてのチェアスキー~後編~
2022.02.01.TUE 公開

学生時代、ナショナルチーム入りを目指すアルペンスキーヤーだったパラアスリート戸田雄也。引退後、車いす生活に。雪上から遠ざかっていたが、「家族でスキーをするぞ」と一念発起し、パラアルペンスキーに挑戦することになった。指導役は、パラリンピアンの夏目堅司さん。さらにオリンピアンの上野眞奈美さんも助っ人として登場! パラサポWEBによる密着取材の後編をお送りする。

【前編はコチラ】
元アルペンスキーヤー戸田雄也、15年ぶりに雪上へ
▶https://www.parasapo.tokyo/topics/65883

昨日はチェアスキーの基本を練習しました。今日はいよいよゲレンデに出て滑ります! 久しぶりにカービングしたときの遠心力を感じたいな。でも、できるかな……。

チェアスキーも健常者のスキー板も、乗りこなすコツは自転車に似ています。自転車はゆっくり走るより、スピードに乗ったほうが操作しやすいですよね。昨日までの戸田さんは、自転車をゆっくり走らせていたようなもの。実は難しいことをしていました。今日はスピードが出るから、経験者の戸田さんはあっという間にカービングのコツを掴んじゃうと思いますよ。そしたら、きっとパラアルペンスキーにハマります(笑)

ここで、少し不安そうな戸田に明るい声が響いた。「雄也センパーイ! お久しぶりです。もう20年ぶり!」というなり、ぎゅっとハグ。ソチオリンピックのフリースタイルスキー日本代表・上野眞奈美さんだ。法政大スキー部では戸田の一つ下の後輩。現在は野沢温泉村でアウトドアショップを運営している。

ソチオリンピック2014に出場した当時の上野眞奈美さん photo by Getty Images Sports

サポート役の上野です。今日は私がチェアスキーにつけたロープを後ろで引っ張ります!

いまは3児の母である上野さんは、法政大スキー部女子選手の草分け的存在だ。大学時代の戸田についてこう振り返る。

当時のスキー部はタテ社会で、私が1年生のとき、雄也先輩はめちゃくちゃ怖かった……。でも、練習や合宿を通し、みんなが家族的になり、雄也先輩とも親しくなっていきました。主将としては、緩めるところは緩める、締めるところは締めるタイプ。スキーが遊びにならないよう、いいチームを作ってくれた頼れる先輩です!

いよいよ雪上2日目のレッスンがスタート! まず平らな場所でリフトを乗る練習から始めた。アウトリガーのツメを立てて、体を少し浮かしながら、チェアスキーの右側にあるレバーを上げると、シートが浮き上がる。リフトにはシートが浮き上がった状態で乗るため、リフトが流れてくる間にこの一連の動きを行わなければならない。

重心を少し左に傾けて右手でレバーを引き上げる操作が難しい

マジかー。一人で乗り降りできるようにならないといけないんですよね!? アウトリガーが滑りやすく、シートを浮き上がらせるのが難しい……。

シートを上げられれば、リフトにはスムーズに座れる

大丈夫。最初のうちはスキー場の方に頼んでリフトを止めてもらおう。シートを上げれば、流れてくるリフトに自然に座れますよ。座ったら、レバーを下ろしてシートを下げてくださいね。

無事リフトに乗れた! 思わず歓喜のサムアップ!

リフトに乗って一安心。しばし、上野さんと昔話に花を咲かせた

思った以上にチェアスキーのシートがリフトに引っかかる感じがあって安心感がありました。降りるときは緊張したんですが、スキー場の方に「降りてください!」と言われたとき、もう目の前に急斜面が迫っていて、「怖え~」と言いつつも、あっという間に降りていました(苦笑)

オリンピアンと一緒に滑降

そしていよいよゲレンデ初滑降! 1本目の上部では上野さんがロープでチェアスキーを引っ張り、スピードをコントロールしながら直下降で滑った。さすがのバランス力で転倒なし!

ロープで戸田を引っ張る、上野さんも笑顔だ

雄也先輩、スゴイ! 私は普段、初心者の子どもたちを同じようにロープでサポートする機会が多いんです。でもビギナーの子たちは、斜面なのに平地と同じ感覚で体を保とうとするからバランスが悪い。一方、雄也先輩は、自然と斜度に対して体を平行にする感覚が染みついている。やはり違いますね。

直下降は、夏目さんからも「いいね!」というお墨つきが出て、続いてカービング(スキー板のエッジを雪面に食い込ませて鋭くターンするテクニック)にトライすることに。1カーブずつ下っていくが、やはり何度も転倒してしまう。

転倒……。「悔しい。どうにかしたい!」とスキーヤーとしての血が騒ぐ

左ターンは、脇腹でシートを押してカービングする感覚が分かってきました。でも僕、右ターンが苦手みたい。これまでコケたのは、みんな右ターン。体を倒す加減が分からないんですよね。なんか悔しいなあ。

でも、カービングの感覚をつかむのは早いよ。戸田さんはスピードを出したほうが、逆にカービングしやすいだろうから、2本目はロープなしで滑ってみよう。

2本目の序盤は直下降。早くも安定した滑り! 表情も落ち着いている。

この付近を過ぎた後、カービングを試みた

そして少し下った後、勇気あるカービングに出た! ぎゅーんと急カーブして、弾丸のように突き進み…………しかし、無念……コントロールしきれず、またコケた。

怖かった~~。今回は、思い切り体を「くの字」に曲げてみたんです。そしたら、ギュッと曲がっていった。でも、何かコツはつかめた気がします。

さらに2本目の途中からは、つかんだコツを生かし、緩やかにカービングしながら滑降した。滑り終えたところで、今回のレッスンは終了!

写真を見ても、アウトリガーに頼らず、スキー板に重心を乗せているのがわかる

最後にアウトリガーに頼るのではなく、スキー板の上にお尻を乗せて操作する感覚がわかってきました。つかめてきました! 

初めてのチェアスキー体験、終了!

戸田さんは本当に上達が早かったです。元アルペンスキーヤーの経験、パワーリフターの筋力を見せてもらった気がします。今後は、自分の体に合ったチェアスキーをつくれば、もっと楽に滑れるはずですよ。今後もゲレンデに来ることを期待しています!

初めてチェアスキーのサポートをして、私も初めての経験ができました。これでいつでも雄也先輩のサポートができます! いつでもお手伝いしますので、一緒にスキーをしましょう!

やっぱりスキーは最高! 2日間でリフトにも乗れたし、最後はカービングの感覚をつかめました。夏目さん、特別レッスンありがとうございました。それに眞奈美も、来てくれて本当にありがとう! もう少し練習すれば、念願の家族とのスキーを楽しめそうです。まずはそこを目指して頑張ります!


■体験した人:戸田雄也(とだ・ゆうや)

1982年、北海道・枝幸町生まれ。26歳の時に新婚旅行先のハワイで突然足が動かなくなり、車いす生活に。カーリングのオリンピアン、本橋麻里選手に声をかけられたのがきっかけでパラスポーツに出会う。地元・北海道で車いすカーリングに打ち込んだ後、東京パラリンピック開催決定をきっかけにパラ・パワーリフティングを本格的に始め、国内外の試合に出場している。北海道庁所属。2021年4月より日本財団パラスポーツサポートセンターへ出向中。▷プロフィールページはこちら


text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda
Cooperation by Goldwin,FISCHER

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