トルコで復活の狼煙! 日本柔道の活躍を現地リポート(パラリンピック競技・視覚障がい者柔道)

トルコで復活の狼煙! 日本柔道の活躍を現地リポート(パラリンピック競技・視覚障がい者柔道)
2018.05.16.WED 公開

トルコ共和国 ・アンタルヤでIBSA柔道ワールドカップ2018が 4月22日と23日に行われた。この大会は、世界最高峰であるパラリンピック、その出場権に大きく関わる世界選手権・IBSAワールドゲームスに次ぐ大会で、今大会には過去最多の35か国から224名の柔道家が集まった。2020年東京パラリンピックへの出場をかけた加点システムが始まる11月の世界選手権(リスボン)を前に、パラリンピックのメダリストを含む上位ランカーが一堂に会し、その頂点を争った。

日本からも6名の選手が出場し、リオパラリンピックの銅メダリストである廣瀬順子が女子57kg級で金メダルを獲得。さらに女子48kg級では半谷静香が銅メダルを獲得し、日本柔道の存在感を世界に示す機会となった。

会場の様子(トルコ共和国 ・アンタルヤ)

強敵に競り勝った廣瀬と惜しくも敗れた半谷

女子57kg級に出場した廣瀬は、今大会、シードでのエントリーとなり、順調に勝ち進んで準決勝で前回タシュケントのワールドカップ覇者であるS・パルビーナ(ウズベキスタン)と対戦した。前回敗戦している相手に対して廣瀬は、「はじめ!」の声がかかると同時に勇猛果敢に技を仕掛けた。

「彼女が得意とする組み方をされてしまうと自分がいかに危険な立場になるかを理解していたので、それを研究し、対策を行ってきました。また、それだけではなく前回大会後に彼女と合同トレーニングを行った際に自分が得意とする投げが十分に通用することも分かったんです。その二つが自信となり、積極的な攻撃を仕掛け今回の成果を得られました。この経験は今後にも活きてくる経験だと思います」

廣瀬は試合後、呼吸を整えながら天を仰ぎ、「勝った」と小声で呟いた。自分が積み重ねてきた努力が “勝利”という形になって表れ、難敵を倒した廣瀬はそのまま優勝を果たした。

見事に金メダルに輝いた女子57kg級の廣瀬

女子48kg級の戦いで優勝候補にあげられるのがドイツの有名選手、カルメン・ブルシッヒだ。ロンドンパラリンピック、ソウルIBSAワールドゲームスでの金メダル、リオパラリンピックでの銀メダルに代表される彼女の活躍は留まることを知らず、カルメンに勝利することは東京大会でのメダル候補となるだろう。「彼女と対戦するのはこの半年で三回目。次こそは、次こそはという気持ちで技を掛けていきました」と半谷は、今大会、準決勝でカルメンに挑んだ。

長身であるカルメンに態勢を崩され、二回の指導を受ける。劣勢に立たされ、まさに背水の陣となったが残り一分で懸命に仕掛けていた左の背負いが掛かり、半谷に技ありがコールされた。半谷の攻撃はさらに熱を帯び、残り時間も攻め続けたものの、カルメンの柔道着から手が滑り落ちてしまい、審判から無情にも三つ目の指導が告げられて反則負けとなってしまった。

「ついに技ありを決めることができた。でも勝利には届かなかった、その悔しさは今も心の中に強く残っています」

敗れた直後から涙を流した半谷。今回の悔しさとともに、強敵から奪った技ありは今後の戦いでも大きな自信となっていくはずだ。

女子48kg級の半谷は悔し涙を流した

廣瀬の優勝が日本柔道浮上のきっかけに

「全ての選手が多くの経験を積むことができ、その成果をこれからにつなげられることが確信できた大会でした」と今回、日本チームの団長を務めた熊谷修氏は大会を総括した。

「女子選手は今回、二人がメダルを獲得しました。男子は全選手が7位という結果に終わりましたが全選手が大きな収穫を得ることができたと思います。競技歴の長い藤本聰(男子66kg級)のような選手も劣勢となっていた試合を自分の力で運びなおすコツを身につけ、手ごたえを感じていたそうです。『日本に帰って練習をするのが楽しみだ』と話していました。そういうことはなかなかこういった実践の場でなければ積めるものではありません」

また今回の大会は技術面だけではなく、廣瀬順子が獲得した金メダルを得たことによる精神的な影響が大きいと話す。

「僕らはリオ大会で1つも金メダルを獲ることができませんでした。その傷は心の奥に今日まで残っていたのだと思います。その傷が、みんなで君が代を聞くことができた瞬間に癒えたと思いました。日本の柔道はまだまだやれるぞ、と」

11月の世界選手権からいよいよ2020年東京大会に向けた戦いが始まる。今回、廣瀬が表彰台の中央に上り、久しぶりに表彰式で君が代を耳にすることができた。実践の場でしか得られない着実な経験値とともに、世界の舞台で勝ち抜く自信を各選手へ植え付けることができたに違いない。今大会の経験が2020年へつながっていくことを期待したい。

text & photo by Ryo Ichikawa

トルコで復活の狼煙! 日本柔道の活躍を現地リポート(パラリンピック競技・視覚障がい者柔道)

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