世界記録保持者の競演に酔いしれる-ジャパンパラ陸上競技大会

世界記録保持者の競演に酔いしれる-ジャパンパラ陸上競技大会
2018.07.10.TUE 公開

7月7、8日、正田醤油スタジアム群馬で「World Para Athletics公認 2018ジャパンパラ陸上競技大会」が開催された。2年後の東京2020パラリンピックを見据え、“極東の蒸し暑い舞台”を経験しようと、世界トップ選手が終結。国内外の世界記録保持者に注目した。

義足のマルクス・レームが圧巻のジャンプで世界新記録を樹立!

超人ジャンパーが日本で世界記録を打ち立てた

今大会でもっとも観客を驚かせたのは、男子走り幅跳び マルクス・レーム(ドイツ)だ。健常のトップ選手に匹敵する8m40の世界記録を持つレームは、かねてより「オリンピックへの出場」を目指しており、今大会も「障がい者としてではなく、アスリートとしての能力を見せたい」と意気込んでいた。

男子走り幅跳び(片足下腿義足・T64クラス)は、8日午後に行われ、心配された天気も回復した。1回目に8m18をマークすると、「記録が出る予感がした」とレーム。
義足の反発を活かし、空高く舞う。身長185㎝の主役が大ジャンプをするたびに客席はどよめいた。5回目で8m27を跳ぶと、いよいよ最後の6回目、追い風1.5mで自身の記録を7㎝更新する8m47の世界新を樹立。客席に向かって力強くガッツポーズをした。

マルクス・レーム、世界新の跳躍
世界記録更新に雄たけびを挙げる

8m40を跳んだのは、2015年にドーハで開催された世界選手権。「長らく世界記録更新にトライしていたが、日本の地で達成できてうれしい。日本のファンは名前を呼んでくれたり、手拍子をしてくれたりしてくれた。今日はパーフェクトだった」

オリンピックへの挑戦に話が及ぶと、「義足が壊れたとき、同じ(型の)ものに新調することはあるが、(より進化した義足に)変えることはない。僕はフィーリングなどの心理面に重点を置いて記録を伸ばしている」と力説。さらに「オリンピックとパラリンピックがもっと近いものになるといい」「パラリンピアンがどれだけできるか証明したい」などと2020年へ期待を込めて語り、その後、ファンからの写真撮影やサインの要望に応じて会場を去っていった。

地元の観客や競技スタッフと記念撮影

今夏引退を表明している大腿義足クラスのハインリッヒ・ポポフ、ラスト2試合はライバルとともに

会場が大記録に沸く3時間前、片側大腿義足クラス(T63)の走り幅跳びでは、6m77の世界記録を持つハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)がパワフルな踏切とジャンプで観客を魅了していた。

T63クラス世界記録保持者のハインリッヒ・ポポフ

北京から3大会連続でパラリンピックのメダルを獲得したポポフ。「やれることはやったし、燃え尽きたから、今後は若い選手のサポートをしたい」と話し、8月のヨーロッパ選手権で引退することを表明している。

リオパラリンピック金メダルのポポフ、銀の山本篤、銅のダニエル・ヨルゲンセン(デンマーク)が競演した、この日のポポフの記録は6m21が最高。
「(8月の引退まで)残り2試合ということで、気持ちの面で不安定だったし、ケガが治ったばかりで、調子は万全ではなかった。でも、今日は今まで競い合ってきた強い仲間たちと試合ができてハッピーだった」

特筆すべきは、2005年からライバルとしてしのぎを削ってきた山本が左肩脱臼の痛みを押して出場したことだ。山本は「ケガをしたときは無理だと思ったが、最終的に今朝の練習で出場を決めた。僕自身、これがポポフと勝負する最後の試合だったから……記録は出なくても、出場することが大事だった」とT63クラスをともに盛り上げてきた仲間への思いを語る。これに対して「言葉で表せないほどうれしい」とポポフは感謝した。

山本篤も元世界記録保持者

試合は、山本が連続ファールの後、3回目に6m41を跳んでトップに立ったが、ヨルゲンセンも6回目で6m41のジャンプ。2人の記録は同じだが、2番目の記録がよかったヨルゲンセンの優勝となった。

優勝したダニエル・ヨルゲンセンのジャンプ

3位だったポポフはヨルゲンセンと握手し、さらには山本を肩車して、ライバルたちとの時間をかみしめていた。

山本と健闘を称え合うポポフ

初めての日本を楽しんで走ったマルティナ・カイローニ

初来日のマルティナ・カイローニ(イタリア)は、100m(片側大腿義足・T63)の世界記録を保持する。大会1日目の100mでは日本人選手に格の違いを見せつけ、15秒21の大会新記録で優勝。翌日、「慣れない会場で気候も良くなさそうだが、自己ベストを尽くす」と誓った走り幅跳びでもシーズンベストの4m85を記録して優勝し、「観客の拍手が私の力になった」と笑顔で振り返った。

他を圧倒する記録だったマルティナ・カイローニ

投てきのスーパーマン、マウリシオ・バレンシア

猛々しい咆哮でフィールドを支配した世界王者の姿もあった。やり投げ(脳性まひなど・F34)で38m23の世界記録を持つマウリシオ・バレンシア(コロンビア)は、円盤投げ、砲丸投げ、やり投げに出場して3冠。日本選手にテクニックを伝授する余裕も見せ、「2020年の本番前に日本に来ることできてよかった。コロンビアも、数年前からパラスポーツが盛り上がりを見せている。日本の子どもたちにもパラリンピックというお祭りを楽しんでもらいたい」と力を込めた。

スター性をまとっていたマウリシオ・バレンシア ©X-1

2種目の世界記録保持者・佐藤友祈も快走

日本にも、車いすレーサーに乗る強い男がいる。ジャパンパラ一週間前の関東パラ陸上競技大会で、400mで55秒13、1500mで3分25秒08の世界新記録をたたき出した佐藤友祈(四肢まひなど・T52)だ。佐藤は400m、1500mのリオパラリンピック銀メダリスト。3種目にエントリーした今大会は、前週の疲れが残り、また車いすでは重く感じるタータン(走路)での競技だったものの、大会新を更新する快走を見せた。

とくに800mでは、3種目目の世界記録を狙った。「(1500mや400mとは違い)東京パラリンピックの正式種目ではないですけど、(リオパラリンピックの金メダリストでライバルである、レイモンド・)マーティン選手の世界新記録*がそのままが残っているのが、もやっとした感じだったので、塗り替えてやろうという思いで準備した」。アジア記録を持つ伊藤智也に圧勝したものの、記録は1分53秒で世界記録樹立はならず。「全体的に去年よりタイムが伸びているので、チャンスがあればまた狙いたい」と自信を見せた。
*マーティン選手の世界記録:1分51秒64

2種目で世界記録を持つ佐藤友祈

世界に名を刻むトップアスリートたち。そのパフォーマンスに酔いしれた2日間だった。

text by Asuka Senaga
photo by Rokuro Inoue

世界記録保持者の競演に酔いしれる-ジャパンパラ陸上競技大会

『世界記録保持者の競演に酔いしれる-ジャパンパラ陸上競技大会』