東京国際視覚障害者柔道選手権、19歳の瀬戸勇次郎らが優勝

東京国際視覚障害者柔道選手権、19歳の瀬戸勇次郎らが優勝
2019.03.13.WED 公開

3月10日に柔道の聖地・講道館で開催された「東京国際視覚障害者柔道選手権大会2019」。男子7階級、女子6階級の個人戦が行われ、日本を含む15ヵ国から計63名の選手が集まり、熱い闘いが繰り広げられた。世界ランキング上位の選手も多く参戦し、日本のトップ選手が迎え撃つ展開は東京2020パラリンピックでの日本の活躍を占う上でも、またとない機会だろう。大会の模様を日本勢が活躍した階級を中心にレポートしたい。

15ヵ国から63選手が集い、熱戦を繰り広げた

【男子66kg級】瀬戸が藤本を破り全日本に続いて優勝

7名のトーナメント戦で争われた男子66kg級の決勝で顔を合わせたのは、ともに1回戦と準決勝を一本で勝ち上がった瀬戸勇次郎と藤本聰。昨年12月に行われた全日本選手権の決勝と同じ顔合わせとなった。藤本はこれまでパラリンピックで3連覇を含む5つのメダルを獲得しているこの競技のレジェンド。対する瀬戸は一般の柔道で経験を積み、2017年から視覚障害者柔道に取り組み始めた新鋭だが、昨年の全日本大会では藤本を破り初優勝を果たしている。

レジェンド藤本(左)と互角に渡り合い、成長を感じさせた瀬戸(左から2人目)

試合開始から積極的に仕掛けたのは、前回の対戦で敗れている藤本。得意の巴投げで瀬戸の体を宙に浮かせるが、瀬戸はそこから体をひねって見事に足から着地して見せる。瀬戸は「練習相手に巴投げが得意な選手がいるので、彼と練習しているうちに身についた」と話すこの動きで、試合中何度も仕掛けられた藤本の巴投げを全てしのいでいた。逆に瀬戸が仕掛けた低い体勢の背負投げも藤本が横にかわし、お互いに譲らない闘いは本戦では決着がつかず、ゴールデンスコア方式の延長戦に。そこで「勝負をかけようと思った」という藤本が仕掛けた支釣込足(ささえつりこみあし)を「体が反応した」という瀬戸は隅落(すみおとし)で返し、技ありを奪って勝利を決めた。

藤本が仕掛けた支釣込足を隅落としで返した瀬戸が延長で優勝を決めた

試合後、「藤本さんとの決勝は本当に楽しかった」と笑顔で試合を振り返った瀬戸。「この1年半の間に一番成長したのは筋力。(視覚障害者柔道の)初試合のときは本戦で腕がパンパンだったのですが、今回は延長になっても余裕があったので、粘った末に勝つことができた」と語る。2020年に向けた目標を問われ「まずは出場すること。あとのことはそれから考えます」と謙虚に話すが、まだ19歳の新鋭には東京パラリンピックだけでなく、その先の大会での活躍も期待される。「彼(瀬戸)と試合をしていると、まだまだ強くなれそうだ」という試合後の藤本の言葉にも、瀬戸にかかる期待の大きさが感じられた。

互いが「楽しかった」と語ったとおり、笑顔で健闘を称え合った

【男子73kg級】永井が一本勝ちで優勝

男子73kg級も6名のトーナメントで行われ、決勝に進出したのは全日本王者の永井崇匡とフランスのLEGER Lois。ともに準決勝で一本勝ちを収め、勢いに乗る両者だが、先に仕掛けたのは永井だった。準決勝で一本を奪った巴投げでLEGERの体を浮かせるが、ここは凌がれ寝技の展開に。途中、投げ技で技ありを取られたが、これは取り消される。試合時間1分過ぎに寝技の体勢で相手の後ろを取った永井が、体を入れ替えて崩れ上四方固に押さえ込み、1分34秒で一本勝ちを収めた。

崩れ上四方固めでしっかりと押さえ込み、1本勝ちで勝負を決めた永井

「練習してきた足技から崩してから自分の技に入る動きができなかった」と試合後に反省を述べた永井。「寝技で決めるところで決められたのがよかったが、課題のほうが浮き彫りになった」と謙虚に語り「東京パラリンピックまであと1年半。できること、やらなければならないことはたくさんあるので、1つ1つクリアして優勝できるようにしたい」と締めくくった。

【男子100kg超級】正木健人が日本人対決に勝利

3名のリーグ戦で行われる予定だった男子100kg超級だが、出場予定のイギリス選手が欠場したため、全日本王者の正木健人と同2位の佐藤和樹の1試合のみが行われた。互いに手の内を知る両者だけに一進一退の攻防が続き、正木も「時間がかかりそうだな」と感じたというが3分を過ぎたところで佐藤に指導が与えられ、指導ポイントの累積で正木の勝利が決まる。「もう1試合ある予定がなくなってしまったのが残念」と試合後に話した正木。「(組んだ状態で始まる視覚障者柔道は、)海外選手とのパワーの差が出やすい。海外では選手層もどんどん厚くなっているのでうかうかしていられない」と気を引き締めていた。

重量級らしい迫力ある技の掛け合いを見せた正木(左)と佐藤

【女子52kg級】9分におよぶ激戦を石井亜弧が制す

3名のリーグ戦で行われた女子52kg級は、昨年の全日本王者である石井亜弧とカナダのGAGNE Priscillaがともに1勝ずつを挙げ、最終試合で対戦。事実上の決勝戦となった試合は石井が積極的に仕掛けるも4分間の本戦では決めることができず、延長戦にもつれ込む。それでも互いに一歩も譲らず、体力も限界に近付いたと思われる4分過ぎ、GAGNEの仕掛けた寝技を石井が粘りに粘って返し、袈裟固めの体勢に。なおも全力で抵抗するGAGNEを死力を振り絞った石井が押さえ込み延長4分57秒で勝負を決めた。

9分近くに及んだ死闘を制したのは石井の袈裟固め

お互いに礼をしたあと上を向くことも困難なほど、力を出し尽くした熱戦を制した石井は「今回の試合を忘れなければ、今後の試合にも必ず活きるはず」と短く語った。

お互いに力を出し尽くした好勝負を展開した両者は互いを称え合った

【女子57kg級】廣瀬順子が秒殺で勝利を収める

女子57kg級は全日本覇者の廣瀬順子とインドネシアのARTIA GARINI Melidaの2名で争われた。1試合目がいきなり決勝という展開だったが「環境が整っていてアップもきちんとできたので、きちんと準備して試合に臨めた」という廣瀬は、開始わずか9秒で大外刈による一本勝ちで試合を決めた。「普段、同じ技ばかりになってしまうので、いつもは使わない大外刈で勝てたのはうれしい」と試合後に語った廣瀬。「東京大会に向けた年となるので、国際大会にできるだけ多く出場して、1試合ごとに東京につながる収穫を持って帰りたい」と、その眼はすでに東京パラリンピックに向けられているようだ。

試合時間わずか9秒、大外刈で一本勝ちを収めた廣瀬順子
【東京国際視覚障害者柔道選手権大会2019 リザルト】
男子優勝者:
-60kg級 BOLOGA Alexandru(ルーマニア)
-66kg級 瀬戸勇次郎
-73kg級 永井崇匡
-81kg級 DAULET Temizhan(カザフスタン) 
-90kg級 STEWART Elliot(ドイツ)
-100kg級 SKELLEY Christopher(ドイツ)
+100kg級 正木健人

女子優勝者:
-48kg級 AURIERES-MARTINET Sandrine(FRA)
-52kg級 石井亜弧
-57kg級 廣瀬順子
-63kg級 JIN Songlee(韓国)
-70kg級 LEE Gaeun(韓国)
+70kg級 PARK Hayoung(韓国)

text by Shigeki Masutani
photo by Ryo Ichikawa

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

東京国際視覚障害者柔道選手権、19歳の瀬戸勇次郎らが優勝

『東京国際視覚障害者柔道選手権、19歳の瀬戸勇次郎らが優勝』