競技力向上のカギはナショナルトレセンにあり!? 注目の拡充棟に潜入

競技力向上のカギはナショナルトレセンにあり!? 注目の拡充棟に潜入
2020.02.04.TUE 公開

2019年夏、東京オリンピック・パラリンピックに向ける新施設「屋内トレーニングセンター・イースト」が「ナショナルトレーニングセンター(NTC)」の拡充棟としてオープンした。

“オリパラ共用”が特徴だが、パラリンピックを目指す障がい者アスリートが優先的に利用する。稼働から約半年。新たな競技強化拠点となった「NTC・イースト」は東京パラリンピックでメダル獲得を目指すものの、練習場所の確保に苦労し、効率的にトレーニングを行えないと悩んでいた選手たちの強力な味方になっているようだ。

開放感のあるエントラスロビーに各競技の選手が行き交う

ユニバーサルデザイン採用も残る課題

館内の手すりには点字が施され、各部屋の入口に段差はない。パラ選手の利用を前提に設計され、ユニバーサルデザインが採用されている。既存のウエスト棟もパラのトップ選手の利用が認められて以降、オリパラの選手が相互に刺激し合い、競技力向上に一役買ってきた。しかし、建設当初パラ選手の利用が想定されていなかったため、使いづらさも指摘されていた。

専用競技場の出入り口にフェンシングと並べて配置された車いすフェンシングのピクトグラム。“オリパラ一体”を感じさせる

8月のワールドチャレンジカップ直前合宿で「NTC・イースト」を利用した男子車いすバスケットボール日本代表の及川晋平ヘッドコーチは「宿泊棟があり、車いすの選手が合宿をするうえで非常に効率的。ありがたい」と話すなど、利用者から一定の評価を受けている。

一方でパラ競技の関係者からは「宿泊施設の部屋が狭すぎて、ベッドが2つあっても障がいの重い車いす選手が2人で使うのは困難」「パラ選手は障がいやその程度によりできることが異なるので柔軟な対応をしてもらいたい」などの厳しい声も漏れ聞こえている。

4面ある共用コートには、選手の導線と異なる見学コースも整備されている
全30ピストのフェンシング場には車いす用ピストも常設

トレーニングと宿泊・食事を一体化

地上6階、地下1階の「NTC・イースト」は、水泳、卓球、アーチェリー、フェンシング、射撃の計5競技の専用練習場に加え、車いすバスケットボール、シッティングバレーボール、ボッチャ、ゴールボール、パワーリフティング、車いすラグビーなど主に球技の利用を想定した共用コート4面を整備した。そのほか、レストランやトレーナールーム、リカバリーエリアも充実。宿泊施設には全82室(最大143人収容)を備え、トレーニングと食事、宿泊、リカバリーを同一の建物内で集中的に行うことが可能だ。

プールは10レーンあり、水中動作などを動画で収録できる設備も充実

「NTC・イースト」は2019年6月末に竣工後、同7月から段階的に利用が始まったが、ブラインドスイマーで東京パラリンピックのメダル有力選手である富田宇宙は利用開始に伴い、大学のプールから練習拠点を移した。全盲の選手はまっすぐ泳ぐこと自体が困難で、多くの選手が練習する大学のプールでは衝突の危険性もあり、試合を想定した練習を行うことが難しいからだ。

こうした高いレベルの選手が練習できる環境が充実することで、最終的にパラリンピックのメダル増に貢献していくに違いない。

ロビーの一角にはオリパラの歴代メダリストの名が刻まれている

アスリートのコンディショニングもサポート

館内の各所には車いす選手用の体重計も設置されており、また栄養面のサポートなど、コンディショニングの管理システムも理想的だ。

障がい者スポーツの歴史や競技の理解促進を図る紹介コーナー。撮影スポットもある

とくに選手たちから好評なのが食事。提供される食事は栄養素やエネルギー計算がされているほか、味も美味しいと評判だった。食事はタブレット端末で写真を撮ると、栄養計算されたグラフが表示される競技者栄養評価システム「mellonⅡ」で管理できるようになっており、「NTC・イースト」を利用し始めて食事への意識が大きく変わった選手も多いと聞く。

東京パラリンピックで全種目のメダル獲得を目指すボッチャも、「NTC・イースト」で合宿をする競技の一つ。日本代表の村上光輝監督は「ボッチャ選手が体の状態を数値化する取り組みは画期的なこと。いま活躍しているトップ選手がロールモデルになっていくと思うと期待が膨らむ」と笑顔を見せる。

シャワー用のいすや車いすなども用意されていた
練習後のリカバリー用に、温かいお湯の浴槽と冷たい水の浴槽で交代浴が用意されている

“2020年以降”の拠点としても期待

屋内のパラスポーツの競技拠点は、他にパラバドミントン専用体育館「ヒューリック西葛西体育館」(東京都江戸川区)、2018年6月にオープンした「日本財団パラアリーナ」(東京都港区)がある。

日本で日常的にパラスポーツ競技が実施可能な施設は以前から不足しており、とりわけ東京パラリンピック以降、継続して強化や普及を行うための拠点確保は各競技団体や選手の心配事だ。

ボッチャで使用するラインも常設されており、コートもパラリンピックと同じタラフレックスだ
大画面のプロジェクターにハイビジョンカメラで撮影した競技映像を映し出すことができる

前出のボッチャ・村上監督は言う。
「パラリンピックと同じタラフレックスが敷かれたコートに、映像機材、食事のサポート……こんなに恵まれた環境はない。NTC・イーストを使用すれば3日間の合宿であっても、これまでの5日分の濃い練習ができる。そう考えると、東京パラリンピック以降、使用できる施設が減ってしまった場合、むしろNTC・イーストのような機能的な施設で練習をすることが求められるのかもしれない」

パラスポーツの新しい拠点「NTC・イースト」は競技力向上に貢献するだけでなく、障がい者のためのスポーツを取り巻く環境を変えていく存在になるか。引き続き、注目していきたい。

車いす選手が使用できるトレーニング器具も
30人収容のエレベーターは幅が広い競技用車いすでも使用しやすい設計だという
卓球場には、さまざまな国際大会に対応できるよう、多種の卓球台が並べられていた

text by Asuka Senaga
photo by Haruo Wanibe

競技力向上のカギはナショナルトレセンにあり!? 注目の拡充棟に潜入

『競技力向上のカギはナショナルトレセンにあり!? 注目の拡充棟に潜入』