東京パラに向けた陸上競技シーズンの幕開け! 日本パラ陸上競技選手権大会レポート

東京パラに向けた陸上競技シーズンの幕開け! 日本パラ陸上競技選手権大会レポート
2021.03.24.WED 公開

日本パラ陸上競技選手権大会が3月20日~21日に駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で行われた。年に一度各クラスの全日本チャンピオンを決める同大会は昨年9月に行われたばかりだが、自国開催の東京パラリンピックに多くの日本選手を送り込みたい日本パラ陸上競技連盟の熱い思いで開催が実現。4月1日が期限となる東京パラリンピックを争うランキングは6位以内が出場内定ラインのため、シーズンインのこのタイミングで結果を求められる選手も多くいた。

世界7位から逆転を狙う選手も出場したが……

パラリンピック出場切符の獲得は簡単ではない――そう痛感させられる選考レースも佳境を迎えている。ここまで、リオパラリンピック代表組ではT64(義足)クラス100mで日本記録を持つ高桑早生、4×100mリレーメダリストの佐藤圭太(T64)、投てきの大井利江(F53)らがいまだ代表の座を手にしていない。

久しぶりの有観客開催。天気の良かった初日には1032人が訪れた

そんな中、現在ランキング7位に位置し、順位を一つでも上げたい走り幅跳びT47(上肢欠損など)クラスの芦田創、やり投げ・F12(視覚障がい)クラスに出場した若生裕太、同じくやり投げF46(上肢欠損など)クラスの高橋峻也は、大会2日目、ときに風速6mを超える風雨の不運もあり、記録を伸ばすことができなかった。百戦錬磨の山本篤(T63/走り幅跳び)が、「僕がやってきたなかで一番厳しいコンディションだった」と振り返ったほどの悪天だ。

日本パラ陸上競技連盟の原田康弘テクニカルディレクターは厳しい表情でこう話す。

「春先の大会だったが、どんな条件でもコンディションを合わせるのがアスリートだと思う。ランキングを上げなくては圏内に入らない選手も、ギリギリの線にいる選手も記録を残せず、物足りなさがあった」

2019年以来の有観客試合。自身の持つ日本記録に遠く及ばない51m27に終わった若生は「地元の仲間や高校、大学と(自分に)関わってくれた人たちが応援に駆けつけてくれた。(結果を残せず)非常に情けないです」と涙声で言葉を絞り出した。

大会初出場でインターハイ棒高跳び16位の福永凌太は、400mと走り幅跳びで日本新。大学では十種競技に取り組んだ逸材が飛び出した

一方、東京パラリンピックでジャパンのジャージを身にまとう代表内定選手は、好調をアピール。2019年の世界選手権でT63クラス・走り幅跳び銅メダルの兎澤朋美は、100mと走り幅跳びで2冠。100mでは自身のアジア記録を更新する16秒22で、コロナ禍でも止まらない成長ぶりを示し、9月の本番に向けた明るい材料となっている。

「シーズン初めのレースとしては過去最高のタイムだった」と話したのは、T52(車いす)クラス400mなど4種目の世界記録保持者、佐藤友祈。T11(視覚障がい)クラス・5000mの唐澤剣也和田伸也らメダル候補たちも今大会から本番に向けてギアを上げていく。

初日、5000mで好敵手の和田に競り勝った唐澤は、2日目の10000mでアジア記録に匹敵する好走。失格になるもスタミナ強化の成果を出した

観戦を面白くした「ライバル対決」

国内実力者たちも顔を揃えた今大会。競技場の客席はもちろんのこと、ステイホームでマルチアングルライブ配信を視聴した観戦者たちを楽しませたのは“ライバル対決”ではなかろうか。

鈴木に敗れた生馬。車いすを変えるなど「攻めの姿勢」を見せたが……

まず、男子100m決勝では、T54(車いす)の鈴木朋樹が14秒66で大会記録保持者の生馬知季を破って優勝。東京パラリンピックはマラソンで日本代表に内定している鈴木は、かねてよりスプリント力を強化しており、昨年11月の関東パラ選手権に続く2連勝。「勝てるとは思わなかった。本当にうれしい」と顔を紅潮させて喜んだ。

2位の生馬は東京パラリンピックを争うランキング12位に位置する。この日は平凡なタイムに終わったが昨年末、アルミ製の競技用車いすを、短距離では使用している選手が少ないカーボン製に変えるなど崖っぷちでもがいている。「自己ベストを出さなくてはならない。もう少し(気温が)暖かくなれば……」と言葉少なに語った。

「伸びしろしかない」と本人も語るように、試合のたびに自己記録を更新している大矢(中央)

一方、日本選手激戦のT52クラスは、100mでランキング7位の伊藤竜也がすでに東京パラリンピックに内定している同5位の大矢勇気に挑んだが、スタートが持ち味の大矢に終始リードを許して2位。17秒19のアジア記録をマークした大矢に対し、伊藤は17秒64で終わり、ランキングも上げられなかった。

「コロナ禍でもスタートの改善などに取り組んできたが、今回はリラックスしすぎて思うように走れなかった。非常に悔しいです」と伊藤はレース後、うつむいた。

100mでランキング7位の伊藤は記録を伸ばせなかった

女子T54クラスは、マラソンを主戦場とする喜納翼と100m専門の村岡桃佳の対決も見ごたえがあった。

国内で競技人口の少ない女子T54を引っ張る喜納

20日に行われた400m。スタートでぶっちぎった村岡を喜納が捲り差す展開が予想されたが、直前に5000mを走った疲れの残る喜納は58秒00で自己ベストをマークした村岡から2秒44遅れでフィニッシュ。勝負に敗れた悔しさをのぞかせつつ、「レース感覚とスタートの確認ができたのは収穫」と前を向いた。

3月から4月にかけてアルペンスキーと行ったり来たりの“真の二刀流”をいく村岡は、ランキング6位に位置する100mでは「焦りや緊張から思うような走りができなかった」。その悔しさを400mにぶつけ、「前半からつっこみ、苦しかったけれど、後ろから迫ってくる翼さんの気配を感じて抜かされないようにがむしゃらに走った」という。充実感に満ちた笑顔が光った。

夏冬パラリンピアンを目指す村岡は充実感を漂わせた

東京パラ代表へ残された道は?

なお、ランキング6位入りを目指す選手、ギリギリ圏内の6位にいる400mの辻沙絵(T47)、外山愛美(T20)らは、3月27日~28日に行われるWPA(世界パラ陸上競技連盟)公認の日本体育大学陸上競技会で記録更新を目指す。

さらに、6月までにWPAの定める「ハイパフォーマンス標準記録」を突破した選手には東京パラリンピック出場のチャンスが残るため、4月のジャパンパラ陸上競技大会など今後の大会からも目が離せない。

外山ら有力選手はランキング6位をキープしたい
【日本パラ陸上競技選手権大会】
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南スーダンのクティヤン・マイケル・マチーク・ティンが特例で出場。T47クラスの100mと200mで日本選手を抑えて優勝した

text by TEAM A
photo by Rokuro Inoue

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