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ボート・市川友美がアジア・オセアニア大陸予選制し、東京パラリンピックへ

ボート・市川友美がアジア・オセアニア大陸予選制し、東京パラリンピックへ
2021.05.09.SUN 公開

ボートの東京オリンピック・パラリンピック出場枠獲得がかかるアジア・オセアニア大陸予選が5月6日から7日にかけて本番と同じ海の森水上競技場で開催された。7日に行われたパラリンピック種目はPR1女子シングルスカル決勝で市川友美(湖猿RT)が一騎打ちの末、スリランカ選手に勝って1位になり、ボートの代表内定を一番乗りで決めた。

海外の4選手が出艇したPR1男子シングルスカルは、スリランカ選手が圧勝し、フィニッシュの瞬間、右こぶしを天に突き上げた。

PR1男子シングルスカルで優勝したスリランカのJAYAKODI Mahesh

自力でつかんだ初のパラリンピック切符

今年42歳になる市川はスタート直後からスリランカ選手を引き離し、リードしたまま2000mを必死に漕ぎ切った。タイムは、スリランカ選手に3分以上の差をつける12分51秒40。前日、行われた予備予選と比べても1分30秒近く速い。

この圧勝劇は、昨年から体幹を強化し続けたことで、漕ぎの幅が広がったことが大きい。以前は背中を反った状態のまま、体を後ろに飛ばして漕いでいたが、体幹が強くなったいまは、背中を丸めた状態で体を後ろに持っていけるようになり、水に力をより伝えられるようになった。

2019年の世界選手権では最下位の14位で、以来、「自分に足りないところを補うにはどうしたらいいか」という試行錯誤も重ねていた。

必死にオールを漕ぎ、2000mの勝負を制した

努力を続け、東京パラリンピック内定を勝ち取った市川は「2000mを漕がせてもらえるなら、今日は、昨日できなかったことをやろうと思っていました。昨日はけっこう曲がりましたが、今日はまっすぐに走れました」と笑顔で振り返った。

レース開催は危ぶまれていた

実は「漕がせてもらえるなら」という言葉に、ここまで市川が抱えてきた複雑な心境が示されている。レースが開催され、優勝すれば東京パラリンピック内定が決まる。しかし、対戦相手が来日できなければ、レースは成立せず、代表内定は持ち越しに。まず、対戦選手が来日できるかが、レース前の懸念事項だった。

スタートから市川がリードし、スリランカ選手(右奥)を突き放した

ただ、この問題に関しては、その後、スリランカ選手の出場が決定することで無事に解決にいたる。しかし、スタートラインは整ったように思えたが、市川の苦境は続いた。

対戦する選手は、チーム関係者に新型コロナウイルスの陽性反応が出たため、予備予選を棄権し、レース直前まで、出艇できるか、危ぶまれる事態になった。だが、PCR検査でスリランカ選手の陰性が確認され、なんとか決勝は成立したという、心休まらない経緯があったのだ。

車いすで水辺へ!? ボートとの出会い

発掘事業で競技に出会い、初のパラリンピック切符を掴んだ

市川にとって、パラリンピック出場は初となる。2012年、ワーキングホリデー中に楽しんでいたスノーボード中の事故で、腰椎1番を破裂骨折。破裂した骨が脊髄を傷つけ、両下肢に障がいが残った。

ボート競技には、リオパラリンピックの直前に出会う。2016年、「東京でパラリンピックがあるなら」と東京都の選手発掘プログラムに応募し、様々なスポーツを体験。ボートに興味を持ったのは、「車いすでもできる」アウトドアスポーツだったからだ。

「車いすの人は、プールには行けても、(アウトドアの)水辺は無理だと思っていたので、おもしろさを感じました」

選手発掘プログラムで聞いた「練習が終わったあとのビールはうまいぞ!」という協会関係者の言葉にも惹かれたという。実際、練習会場に足を運ぶと、174㎝ある自身の恵まれた体格を生かせる可能性も感じ、ボート競技を始めることを決意した。

パラリンピックで「私は元気です」と伝えたい

スリランカ選手に先着し、フィニッシュ近くで待機する市川

2019年アジア選手権以来の今回のレースを終えると、あらためて課題も見つかった。スリランカ選手には圧勝だったが、12分30秒という目標タイムから約20秒遅れだった。

「同じペースで漕ぐという課題はクリアできなかった。一番速い人は10分台なので、直せるところはたくさんある。1秒でも速くなれるよう練習していく」

なお、3年前のインタビューで市川は、「パラリンピックの目標は金メダル」と強い思いをはっきりと口にしている。

「あまり人には言ったことがないのですが、こういう体になって、金メダルくらい獲らないとやってられないな、という気持ちがあります。人生プラス・マイナスを考えたとき、マイナスが多い気がするので……」

この言葉には、金メダルを獲れば「入院中や術後の私しか知らない人に、私はこんなに元気になったよ、と知らせることができるから」という思いがある。

雰囲気に飲まれないようメンタルの強化も行ってきたという市川。「今日のレースでは克服できた」

そして、家族や友人を思いやる気持ちはいまも変わらない。レース後、東京パラリンピックに出場できる喜びをこう語った。

「今(コロナ禍の)こんな状況で、どうなるかわからないですけど、応援してくれる家族や友達に、頑張っている姿を見せられるのはやっぱりうれしいです」

30歳までは、夏は海辺、冬はスノーボード場で働き、サーフィン、スノーボードを通じて得た友人たちがいる。

大舞台に立てることが決まった市川は、支えてきたくれた人への感謝を胸に、残り約3ヵ月、トレーニングに励む。

【アジア・オセアニア大陸予選 リザルト】

PR1女子シングルスカル:
1位市川友美、2位 GOWINNAGE DONA Samitha Samanmalee(スリランカ)

PR1男子シングルスカル:
1位 JAYAKODI Mahesh(スリランカ)、2位 KHOLMUROD Egamberdiev(ウズベキスタン)、3位 KOMNUAN Pooyin(タイ)

東京オリンピック・パラリンピック出場枠がかかる大陸予選が行われた海の森水上競技場

text by TEAM A
photo by X-1

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