車いすテニス小田凱人、生涯グランドスラム達成記者会見で語った「世界を変えたい」

車いすテニス小田凱人、生涯グランドスラム達成記者会見で語った「世界を変えたい」
2025.09.11.THU 公開

車いすテニスのパリ2024パラリンピック金メダリスト小田凱人が、四大大会の最後のタイトルである全米オープン・男子シングルスを制覇。四大大会とパラリンピックを全て制する“生涯ゴールデンスラム”を達成して9日に帰国。自身にとって「何よりもご褒美」という凱旋記者会見に臨んだ。

超ユニークな冒頭のあいさつ

会見の席に着くと、おもむろにスマートフォンを取り出した小田。「俺のブルースを聞いてくれ」と言わんばかりに、帰国の飛行機の中で思いついたという言葉を紡いだ。

帰国直後、スーツ姿で会見に臨んだ

「虹は、雨のあとでしか見れません。
雨の中でも、見れません。
すべてが過ぎ去ったあとに、虹は見れます。

僕にとって、ニューヨークでの出来事は、そのようなものでした。
どんなに結果を信じても、夢を願っても、人を愛しても、それが叶わないときや愛されないときもあると思います。
自分を信じて、自分のことを愛するまでは。

僕は自分のことを信じれなくなったことは、一度もありません。
僕は自分を愛せなくなったこともありません。
だから、僕は、虹を見れたんだと思っています」

小田らしさあふれる記者会見の始まりだった

現地時間の6日に行われた全米オープンの決勝はグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)に6-2、3-6、7-6(13-11)。死闘の末に掴んだ全米制覇だった。そんな試合を何かに例えたいと考え、「決勝戦についての僕なりの表現」で凱旋会見を飾ったのだ。

「いろんなことがあって、初めて虹が出てくる」。全豪1回、全仏3回、全英2回、そしてパラリンピックを制しているものの、全米だけ結果を出せていなかった。

有言実行の小田は、全米オープンで優勝トロフィーを手にした

「ウィンブルドン(全英)から(全米まで)1ヵ月以上時間が空いて、練習をひたすらやった毎日だった。途中、迷いもあったし、体調を崩すこともあった」

それでも全米に向けて「これまでで一番追い込んだ」という練習に裏打ちされた自信があったから、相手に計4回マッチポイントを握られても強気で戦い抜くことができた。

優勝を決めて涙を流し、“虹”を見たフェルナンデスとの決勝戦は、9年の競技人生の中で忘れられない試合になった。

記者会見には、小田の所属スポンサーである東海理化の佐藤雅彦副社長が同席。「これからも前人未到をやっちゃってください」と激励した

一輪車の横にテニス車を

かねてから語っているように、車いす競技を人気競技に押し上げたいと話した小田。生涯ゴールデンスラムを成し遂げた今、次なる目標は何か、その発言にも注目が集まった。

「(ある年の四大大会をすべて制する)年間グランドスラムを来年から負けなしでずっと取りたい」
「サーブで(時速)200㎞を出したい」
「スタジアムで試合をしたい」
「車いすじゃない人でも参加できる大会を開きたい」
「テニスクラブに車いすをプレゼントしたい」
「いつか小学校の一輪車の横に、車いすテニス用の車いすが並んでほしい」

本人曰く「無理じゃね、ということばかり」だが、「まだキャリアは始まったばかり」。長い時間をかけて、ひとつでも多く実現させるつもりだ。

目指すはゲームチェンジャー

日本では「Google Pixel」のCMなどに出演しており、一般的に知られる存在になった小田。今回の帰国も羽田空港で多くの人たちに迎えられた。

全米優勝後は、「ニューヨークの栄えているところに(自分の)広告が出てうれしかった」と明かし、世界的に知名度を上げたい気持ちが高まっているようだ。

小田が目指すのは「めっちゃ勝った人より、めっちゃ何かを変えた人」。何十年先に、引退してから、死んでから評価してもらえる人になれるか。それが一番の見せどころだ、と言葉に力を込めた。

「勝ちたいより、変えたい」と話した小田

日本選手として初めて生涯ゴールデンスラムを達成した国枝慎吾さんについては「記録がえぐすぎて、近づいた感じは全くない」とコメント。

車いすテニス選手として最年少の19歳3ヵ月29日で偉業を達成したが、「自分の中では1位ではなく、5位くらい」と話す。パラアスリートやテニスプレーヤーの枠にとどまらないスーパースターを目指す小田凱人は、自分らしく、まだ見ぬ高みを目指していく。

「久しぶりに帰りの飛行機でお菓子を食べた」という10代らしい一面も

text by Asuka Senaga
photo by Hiroaki Yoda

『車いすテニス小田凱人、生涯グランドスラム達成記者会見で語った「世界を変えたい」』

車いすテニス小田凱人、生涯グランドスラム達成記者会見で語った「世界を変えたい」