【パラスポーツと教育】パラアスリートと出会った小学生が起こしたアクション、その「卒業制作」とは

【パラスポーツと教育】パラアスリートと出会った小学生が起こしたアクション、その「卒業制作」とは
2023.01.26.THU 公開

シリーズ「パラスポーツと教育」では、パラスポーツ・パラアスリートからの学びが子どもたちに何をもたらすのか、さまざまな風景から迫ります。
第2回は、東京都の学校での車いすバスケットボールの出前授業を取材。今回授業を受けた子どもたちの様子と、昨年度に授業を受けた子どもたちが起こしたあるアクション。それぞれの変化から、パラアスリートやパラスポーツが人や社会に働きかける強い力が感じられました。

2年続いてパラアスリートが小学校を訪問。昨年の「約束」

学校の体育館に集まって実施された教育プログラム「あすチャレ!スクール」。この回は東京都が実施するTOKYOパラスポーツ月間の一環として開催されました

東京都昭島市に位置する啓明学園初等学校。幼稚園から高等学校までを備える学校法人の、小学校にあたる課程を担う学校です。在籍する児童の約3割が、海外での生活経験があったり、国際結婚家庭に生まれた子どもであったりと、多様な言語経験をもつ「国際生」。そうした背景から児童の個性を大切にする特色ある教育活動を行っています。

2022年9月のある日、この学校を訪れたのは、シドニー2000パラリンピックで車いすバスケットボール男子日本代表のキャプテンを務めた根木慎志さん。小学6年生の児童たちにパラスポーツを体験してもらい、共生社会への気づきや学びの機会を提供する出前授業あすチャレ!スクールを行うためです。根木さんがこの学校を訪問するのは、昨年度に続いて2回目です。

しかし根木さんがこの学校を訪れた目的は、あすチャレ!スクールの実施以外にももう一つありました。それは、昨年度の授業で出会った現在の中学1年生の生徒たちとの、ある約束を果たすため。根木さんが子どもたちに伝えたメッセージ、そして「約束」とは何だったのでしょうか。

「すべての人と友達になりたい」パラアスリートの言葉が響く

熱気に包まれた体育館で、大きな拍手とともに迎えられた根木さん。まずは小学6年生の子どもたちとの時間です。

初めは少し緊張気味だった子どもたちも、根木さんのお話が始まるとじっと聴き入ります

高校3年生の時、足が不自由になり希望を見失いかけていた根木さんが車いすバスケットボールに出会ったときの衝撃と興奮について話し始めます。車いすバスケットボールの試合を目の当たりにして、すごい!かっこいい!と感動し、すぐにやりたいと思ったのだそう。友人たちもそんな根木さんの姿を見て、気持ちを理解し、寄り添ってくれたと言います。

「人とちがうことを、初めはマイナスにとらえてしまったけれど、誰にでもできないことはあるし、そもそも人はみんなちがっているもの。誰かが困っていたら気づくこと、応援することが大切だと思う。友達ってそういうもの」

友達が喜んでいたら一緒に喜ぶ、友達が困っていたら一緒に考える。だったら、「すべての人と友達になりたい」という信念をもつようになった、とお話を続けます。友達同士、気持ちのやりとりをするのに「障がい」となるものは何一つありません。気持ちを伝えようとすること、理解して受け取ろうとすること、そんな純粋な心のやりとりがそこには存在していました。

プレーを通して「頑張る友達を応援する」こと

お話に続き、根木さんが競技用の車いすに乗り換え、華麗なドリブルやシュートを披露します。さっそうと体育館を走り回り、高く正確なシュートを放つ様子に、子どもたちからも拍手があがります。軽やかなプレーを見て、いとも簡単にこなしているような錯覚に陥りますが、難易度の高いスリーポイントシュートにも挑戦。

華麗なプレーを次々と披露。そのたびに歓声や拍手が沸き起こります

「これから難しいシュートに挑戦するよ。みんなが名前を呼んで応援してくれたら、それが力になるんだ。ぼくたちはもう友達だから、応援してくれるかな?」

ロングシュートを放つ根木さんを、夢中になって応援する子どもたち。こうした経験が、友達同士支え合う姿勢につながっていくのかもしれません

子どもたちはマスクの下から根木さんの名前を呼び、拍手とともに応援を送ります。華麗にシュートが決まったとき、自分のことのように喜ぶ子どもたち。年齢を超えた心のつながりが生まれた瞬間でした。

車いすバスケットボールの体験でひとつになる心

続いて子どもたちが競技用車いすに乗ってみる時間です。

実際に初めて乗ってみると、見ていたのとはちがって思うように動かすのが難しい

スピードや曲がる方向、止まるタイミングなど、根木さんが自由自在に操っていたのとは裏腹に、まっすぐ進むだけでも一苦労する様子も。それぞれのペースで体験することを大切にした時間。どう感じたかは、一人ひとりの胸に残ります。

全員が試乗した後は、チームに分かれて車いすバスケットボールの試合を体験。

5対5に分かれて試合をスタート。初めての挑戦をする友達をみんなで応援しよう、と、観戦する子どもたちに伝えています

試合が始まると、まさに白熱。ボールを持ちながら車いすを操作し、パスを回し合う。シュートするポジションを取りたいが車いす同士がぶつかって思うように位置取りができない。腕の力だけで放ったシュートは高さが足りず、なかなか入らない……。困難の連続でも、子どもたちの目は一心にボールとゴールを追っています。

慣れない車いすを懸命に動かしながらボールを追う。応援もどんどん白熱してきます

気づけば見ている方の子どもたちも身を乗り出し、大きな応援を送っています。

「いいぞ!がんばれ!」
「おしい!もう少し!!」

頑張る友達を応援する姿が、自然と生まれています。

最後の1秒まで集中し続けた子どもたち。試合をやった子どもたちからは、

「難しかったけど楽しかった」
「友達の応援がうれしかった」

と、素直な言葉。友達と一緒にプレーし、応援する中で、お互いを支え合い、一緒に楽しむことの大切さを感じることができたのではないでしょうか。友達と言葉を交わしながら体育館を後にする子どもたちには、笑顔があふれていました。根木さんの言葉は、パラスポーツを通じて子どもたちの中に一層強く響いていたはずです。

昨年度出会った子どもたちのアクションと、再会の約束

6年生とのあすチャレ!スクールの後、このすばらしい時間をちょうど1年前に体験した現在中学1年生の生徒たちが、授業を終えた根木さんのもとに集まってきました。満面の笑顔での再会です。

昨年度、根木さんと授業を通して心を通わせ、感銘を受けた子どもたちは、考えました。

「根木さんと友達になれて嬉しかった」
「またこの学校に来てほしい」
「根木さんにまた来てもらえるように、何かしたい」

そうした思いから、それまで学校になかった車いす用のスロープを作ろうということになり、卒業制作として取り組んだのです。そのスロープができあがったのを見てもらいたくて、中学1年生になった生徒たちは根木さんに声をかけ、もう一度会おうと約束していたのでした。

根木さんを迎えるため、この日体育館の入口に設置された車いす用スロープ。アイデアの発案から制作、完成までにはさまざまな道のりがありました

授業の感想を伝え合い、自分たちにできることを考えた

スロープを作ろうというアイデアは、初めからすんなり決まったわけではありませんでした。啓明学園では、日ごろからそれぞれが考えたことを文章に書いたり、発表し合ったりする機会を多くもっているそうで、昨年度の出前授業を受けた後も感想を書いてクラスで発表し合いました。その中で、こう考えた子どもがいました。

「もしこの学校に、車いすで来るのに『障がい』となるものがあるなら、それを取り除きたい」

この意見をきっかけに、自分たちの学校で過ごしづらいところや不便なところはないか、どうすれば解決できるか、などの議論が始まったのです。出前授業の中で根木さんが伝えた、「障がいとは何か」というメッセージがしっかり伝わっていたからこその発案だと言えるでしょう。

何かをするうえで困ることを『障がい』とするならば、それは人や社会が作ってしまっているもの。でもそれなら、障がいを取り除くことができるのもまた人の力なのではないか、というメッセージが、根木さんの授業を通して子どもたちに届いていたのです。

自分たちに何ができるか、さまざまなアイデアが出る中で子どもたちは話し合いを重ね、スロープを作りたいという意思が決まったのでした。

子どもたちの心が動いた瞬間を逃さず、すぐに横断的な連携をとった先生方

子どもたちからスロープを作りたいという提案を受けたとき、担任の先生方はどう対応したのでしょうか。当時6年生の担任だった天野美穂先生と守屋陽平先生にお話を聞きました。

「初めに話を聞いた時には、スロープを作るということで大々的な作業になるなと思いましたが、子どもたちの心が動き、行動に移したいと提案してきたその思いを大切にしたいと思いました。制作に関しては実技面でのサポートは担任だけでは難しいと思ったので、すぐに図工の専科の教員に話をつなぎました」

子どもたちの心が動いた瞬間を逃さず行動に移すサポートをしたかった、と話す天野先生

このときの先生方の迅速な対応は、子どもたちの「やりたい」という気持ちを実現させるためのサポートの大切さに気づかせてくれます。話を聞いた図工の先生も、子どもたちの思いを受け止め、すぐにスロープ作りを授業に取り入れたそう。柔軟にカリキュラムを変更し、卒業制作として取り組むことが決まりました。

そこからスロープ作りのプロジェクトはどんどん進んでいきました。スロープはどこに、いくつ必要か。1つのスロープを何人でどう担当するか。サイズは?使いやすいデザインは?自分たちが込めたい思いは?多くのことを考え、話し合い、一つずつ決めていきました。

こだわったポイントは、「使う人が楽しい気持ちになれること」。その願いの通り、明るくきれいなデザインとなりました。また、段差の高さや傾斜も計算し、ふちは車いすからでも見やすいように色分けされています。

こだわりのスロープ。裏には子どもたちの寄せ書きが書かれていて、この日根木さんもサインを書き入れました

3か月にわたるアクションが実を結び、「根木さんにまた学校に来てほしい」という子どもたちの願いがかなった1日となりました。

日ごろから教育活動の中で大切にしていた「考え、伝え合う機会を作ること」

すばらしいアクションを見せてくれた子どもたちですが、それを支えたものは何だったのでしょうか。心動かされ、感じたことを素直に伝え合った子どもたちが、できることを考えて友達と話し合い、提案し、実現へと行動していったその過程には、子どもたちの「伝えよう」「行動しよう」という意志と、先生方の「受け止め」と「支援」がありました。

「言葉にして伝えようと心がける土壌はあると思います。本校では海外からの帰国生などさまざまなバックグラウンドをもつ子どもがいるため、『きちんと伝える』『言わなければわからない』ということは日ごろから話しています。同時に、友達の意見をフラットに聞いて受け止める雰囲気もあります。ふだんの授業や行事などの中でも思ったことを素直に伝え合う機会は多く持っています。たとえば文章にして書き、クラスの中でペアになってお互いに読み合うなどしていますね」

日ごろから思いを伝えたり受け止めたりする経験の中で、発言しやすい関係性ができあがっていたのではないか、と話してくれた守屋先生

また、根木さんの授業を受ける前から、折に触れて「みんなが暮らしやすい社会」について考える機会を持ち続けていたと言います。ブラインドサッカーの体験をしたり、学校の中を見回して何か改善できることがないかを探したり、気づいたことを記事のようなかたちで文章にまとめたり。そうした活動を積み重ねる中で、自分たちにできることを考え始めていた子どもたち。何かしてもらうだけでない、自分たちは人のために何かできる存在なのだと自覚し始めていたことで、今回のアクションにつながったと言えるでしょう。

今回のスロープ制作も、ほかの学年の児童や先生方に発表して伝えたそう。経験の輪が今後も全校に広がっていくかもしれません。

自分たちにできることを考えるようになった、心の成長

話し合いを重ねながらゼロから一つのものを作り上げた経験をしたことで、友達との絆も深まったと先生方は言います。完成したスロープの裏に書き込まれた、一人ひとりの思い出やメッセージからもそれは伝わってきました。自分たちが行動すれば何かが変わる、世界中の人と友達になることもできる、この経験は、これからの学校生活でも大きな自信になっていくことでしょう。

根木さんの授業の冒頭、このようなお話がありました。

「人はそれぞれ違うけれど、相手の気持ちになれるのが『友達』。人と自分は、同じにはなれないけれど、友達を応援すること、自分が応援してもらうこと、それが大きな力になる」

一連の経験を通して、子どもたちが得た友達との絆は、かけがえのないものになっているはずです。

また、車いすの操作やバスケットボールの試合では、難しいと感じる場面、うまくいかない場面も多数あったにもかかわらず、体験をした子どもたちも先生も、「難しかったけど楽しかった」という感想を述べました。できること、うまくいくこともすばらしいけれど、できなくても楽しいこともある。できるかできないかよりも、チャレンジすることのよさを体で感じることができました。


子どもたちが作り上げたスロープは、生きていくうえで障がいとなるものを解決できるのも社会、人の力なんだということを伝え続けているように思えます。
授業を通して、仲間と心をひとつにして笑顔いっぱいになった小学6年生。「また根木さんに学校に来てほしい」という思いから、自分たちにできることを考えて行動を起こした中学1年生。世代や立場を超えて生まれた絆から、パラアスリートの言葉、パラスポーツの体験が単なる「障がい理解」に留まらない、子どもたちの思いやりやエネルギーを引き出すトリガーになっていることを感じられた一日でした。

あすチャレ!スクールについてはこちら→https://www.parasapo.tokyo/asuchalle/school/

text by Ayako Takeuchi
photo by Noriaki Miwa

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