2019パラカヌー海外派遣選手最終選考会、瀬立らが優勝も強風に課題

2019パラカヌー海外派遣選手最終選考会、瀬立らが優勝も強風に課題
2019.04.02.TUE 公開

3月27日から31日にかけて香川県坂出市で開催された第29回府中湖カヌーレガッタは、健常のカヌースプリントの海外派遣選手選考会を兼ねて行われ、パラカヌーも海外派遣選手最終選考会が実施された。

今年の選考会は晴天に恵まれ、気温は13度。だが、南西から風が吹きつけ、波も立つ厳しいコンディション下でレースは行われた。

世界選手権のメダルを見据える日本のエース瀬立

府中湖の200m直線コースを漕ぎ進める瀬立(手前)

注目は、2016年のリオパラリンピックに日本選手として唯一出場した瀬立モニカ。一種目目に行われたカヤック種目では、瀬立と同じクラスの選手が棄権したため、女子のKL1~KL3クラスの選手で一斉にレースを行った。最も障がいの重いKL1クラスの瀬立は、最も障がいの軽いKL3クラスの加治良美に次いでゴールし、1分8秒309でKL1の優勝者となった。また、約2時間後に行われたヴァー種目にも出場。1分42秒123でフィニッシュし、2019年のパラカヌー海外派遣選手の座を内定させた。

順当に2冠を達成したが、日本のエースが見据えるのは、あくまでも東京2020パラリンピックでのメダル獲得だ。「風があったとはいえ、3月上旬に計測したときよりもタイムが10秒ほど落ちている。しっかり振り返って、その要因を突き詰めたい」と冷静に語った。

東京江東区出身の瀬立。地元開催の東京パラリンピックにかける思いは強い
©Kazuyuki Ogawa

パラリンピックのカヌー競技の距離は200mのスプリント。スタートダッシュを持ち味としている瀬立だが、後半の失速を抑えるために、100m地点で最大スピードが出力されるように練習を重ねてきた。冬場も沖縄やオーストラリアで乗艇し、同時に持久力アップにも重点を置いたというが、「まだトレーニングの効果が出ていないのかもしれません」。今年は8月に東京パラリンピックの参加枠獲得に重要な世界選手権を控える。出場権争いは2020年まで続き、出場のためには“世界トップ10入り”が必須だが、「世界選手権はメダルを狙って出場したい」と高い目標を掲げることで自らを鼓舞した。

混戦の男子L3は辰己が2冠

VL3男子で優勝した辰己(中央)、2位の今井3位 、3位の諏訪

男子の最も障がいの軽いクラスは、辰己博実(KL3、VL3)が2種目で優勝。波が強く、選手たちの艇が揺れる中でスタートしたカヤック種目は、序盤で遅れたものの、安定したパドリングでスピードに乗り、後半に巻き返した。
「スタートは(すぐに漕ぎ出せるように)パドルを半分入水させるが、横波がすごくて、バランスを取るのに必死でうまくいかなかった」と振り返りつつ、冬場に充実したトレーニングを積むことができたという辰己は、「これまでは他の選手に前に出られたら、慌ててしまい水をとらえる感覚が軽くなってしまうこともあったが、パドルを伸ばすような意識で漕ぎ切ることができた」と成長に自信を見せた。

リオ後に競技を始めた選手たちに期待

元野球少年の高木は、カヤックで東京パラリンピックを目指す

さらに、男子はリオパラリンピック後に台頭した選手の活躍が光った。KL1優勝の高木裕太は、車いすソフトボールなどの競技を経て2017年にカヌーを始めた24歳。ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点のある石川県に住居を構え、短期間で成長を遂げてきた。この日は、強風のレースを制したものの、1分6秒995と平凡なタイムに終わり、「環境の変化に耐えられるように、練習拠点でもいつも同じ方向ではなく、いろんな向きで漕ぎ進めるなど考えながら練習していきたい」と話している。

そんな高木の目標は、もちろん東京パラリンピックへの出場だ。「まだまだ伸びしろはある。世界の強豪選手の動きを参考にしつつ、世界10位に食い込んでなんとか出場権を獲りたい」と意欲的に語った。

用具の改良に取り組みながらカヤックとヴァー2種目でチャレジする加藤隆典
©Kazuyuki Ogawa

KL2、VL2で2冠の加藤隆典もリオ以降に競技を始めた選手だ。26歳のときにスノーボードで脊髄を損傷し、以降もサーフィンなど水上スポーツに親しんできた。そんななかでパラカヌーの体験会にも参加経験があったという。当初、世界を目指す気持ちはなかったというが2016年、パラリンピックに興味を持ったことで日本パラリンピック委員会の選手発掘事業に参加。様々な競技を体験する中で、アウトドアスポーツの適性を感じてパラリンピックへの挑戦を決めた。40歳になる現在は、アスリートとして会社に勤めながら、東京パラリンピックを目指す。

加藤は、この日を振り返り、「今日はスタートの待ち時間が長く、寒さで体が動きにくかった」と話しつつ、「これから海外の試合を戦っていく上でどんな状況にも対応できる選手にならなくてはならない。今年と来年の世界選手権に向けて、技術、用具、体力すべてを向上させて臨みたい」と言葉に力を込めた。

また、KL3には、パラアイスホッケーで平昌パラリンピックに出場したほか、車いすバスケットボールで活躍した経歴を持つマルチアスリート堀江航の姿もあった。昨年8月に競技を始め、乗艇回数は約40回ながら、4着でフィニッシュ。「もっとタイムを縮めて次は日本一を獲りたい」と笑顔をのぞかせた。

夏冬パラリンピアンを目指す堀江航が公式戦デビュー
©Kazuyuki Ogawa
【2109パラカヌー海外派遣選手最終選考会 リザルト】

KL1女子:1位 瀬立モニカ
KL2女子:1位 宮嶋志帆
KL3女子:1位 加治良美 2位 増田汐里
KL1男子:1位 高木裕太 2位 田村亮
KL2男子:1位 加藤隆典 2位 冨岡忠幸 3位 森島英樹
KL3男子:1位 辰己博実 2位 小山真 3位 今井航一
VL1女子:1位 瀬立モニカ
VL3女子:1位 宮嶋志帆
VL2男子:1位 加藤隆典
VL3男子:1位 辰己博実 2位 今井航一 3位 諏訪正晃

選考会終了後、ボランティアを囲んで記念撮影をする選手たち

text by Asuka Senaga
key visual by Kazuyuki Ogawa

2019パラカヌー海外派遣選手最終選考会、瀬立らが優勝も強風に課題

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