国枝慎吾4年ぶり優勝! 車いすテニス「JAPAN OPEN」男子レポート

国枝慎吾4年ぶり優勝! 車いすテニス「JAPAN OPEN」男子レポート
2019.05.08.WED 公開

グランドスラムに次ぐ権威を誇るスーパーシリーズのひとつ「天皇陛下御在位三十年記念 天皇杯・皇后杯 第35回飯塚国際車いすテニス大会 (Japan Open 2019)」が4月23日から28日まで、福岡県飯塚市で行われた。

昨年より男子シングルス優勝者に下賜される天皇杯は、7-6、7-5でステファン・ウデ(フランス、世界ランキング3位)との決戦を制した世界ランキング1位の国枝慎吾の手に渡った。国枝の優勝は4年ぶり9回目。男子ダブルスは、国枝/眞田卓(ダブルス世界ランキング8位/9位)を退けたウデ/ペイファー(フランス、ダブルス世界ランキング1位/2位)が頂点に立った。

「天皇杯という課題がクリアできた」(国枝)

世界ランキング1位の国枝慎吾

小雨がぱらつくなか、優勝を決めると国枝はガッツポーズし、表彰式で天皇杯を高々と掲げた。「天皇杯を獲るという課題がクリアされホッとしています」と満面の笑顔だった。

世界を引っ張ってきた日本のエースは、今年、35歳になった。この20年間でパラリンピックの単複をはじめ、様々なトーナメントを制してきたが、2016年よりグランドスラムに加わったウインブルドンのタイトルは手にしたことがなく、この王座をつくことが現役を続ける最大のモチベーションになっている。

今大会もすでに8回優勝。それでもトム・エバーリンク(オランダ、世界ランキング11位)を準決勝で退けたあと、「今回は期するものがある」と特別な思いを口にした理由は、昨年から天皇杯が贈られることになり、「僕のキャリアで残された課題はウインブルドンと天皇杯だけ」という思いがあったからだ。前回は決勝戦でゴードン・リード(イギリス、世界ランキング7位)に敗れた。

ウデとの決勝戦は、秘める決意を発散させるように立ち上がりから声を出した。経験豊富な48歳には43勝13敗と圧倒的勝率を誇るが、1月のベンディゴオープン(オーストラリア)で敗れたように、「メンタルタフネスが要求される」簡単ではない相手だ。もっとも尊敬するテニスプレーヤーでもある。

長年、国枝とライバル関係にあるウデも健在

「ウデ選手は車いすテニスのレベルを引き上げた変革者。僕は彼になんとか勝とうと思い成長してきました。長年、対戦してきたので、ナダル対フェデラー戦みたいな思いが互いにあります」

試合はどちらが勝ってもおかしくない「スーパーバトル」(国枝)になった。

ラリー戦を展開した国枝が勝利

第1セットは場内が沸くビッグサービスでウデが流れを掴み、国枝は3-5のビハインドを許す。だが9ゲーム、“超”ロングラリーを制して、ゲームカウントを4-5にすると、国枝は「先にストロングショットを打ち、相手を走らせる形をつくれるようになってきた」と流れを引き寄せ始める。

必死で追いかける5-6で迎えた12ゲームは、ネット前へボトリと落ちるショットなどで瀬戸際をしのぎ、タイブレークではフォアハンドからのクロスを有効に使って、第1セットを奪取した。

第2セットは要所で長いラリーを制した国枝が上回った。この日の組み立てを象徴するような展開は2ゲーム目、強く降り出した雨のなか、放ったドロップショットだ。国枝はベースライン後方で走り回って耐えたあと、苦しそうに前へボールを落とし、ゲームカウントを2-0とした。その瞬間、「カモン!」という雄たけびもあがった。

このあと国枝はしっかりとウデを前後に揺さぶりながら、フォアのクロスも多用して、ゲームカウント3-3、4-4、5-5と追いつかれながらも決してリードは許さなかった。前後、対角線への攻撃に対応するウデのチェアワークはさすがだったが、息のつまる我慢比べを制したのは、ラケットにも記した「俺は最強だ」という言葉を心に唱えた国枝だった。

2回目の挑戦で初めて天皇杯を掲げた国枝 ©Yoshimi Suzuki

――4年ぶりの頂点。その間、右ヒジの故障で選手生命が危ぶまれた時期もあるが、昨年6月に世界ランキング1位の座を奪還し、今では「すぐに東京パラリンピックが開催されればいいのに」というほどの充実ぶりだ。「気を緩めた瞬間、勢力がガラッと変わってしまう」というほど群雄が割拠する男子シングルス界のなかで、この言葉は頼もしい。

すでに東京の出場が内定している王者は、「気を抜かず、東京まで一日一日を過ごしたい」と気を引き締め、前を向いていた。

 

急成長の眞田卓はシングルス5位&ダブルス2位

国枝/眞田ペアは決勝で敗れたもののダブルスで2位に

ウデはシングルスこそ国枝に敗れたが、ペイファーとのダブルス決勝で、国枝/眞田卓(ダブルス世界ランキング8位/同9位)を6-3、6-2で下して優勝した。

試合後、「ウデ選手が相当キレキレでやられてしまった」と苦笑したのは国枝だ。

車いすテニスの陣形は、2人がベースラインに下がった守備的な「2バック」が基本で、オープンスペースが少なく得点しづらい。だが、「ウデ/ペイファーは針の穴を通すように隙を突ける」(国枝)のが強みで、日本ペアはネットプレーでも差をつけられた。

それでも本格的に組み始めて3回目の日本ペアにとって準優勝という結果は大きい。ウデが「眞田の急成長に驚いた。バックハンドからのパワーがすごかったし、力任せのプレーが減っていた」と語ったように、国枝の安定感に眞田の進化が加わって成熟度が増し、コンビネーションという課題が明らかになってきた。

日本の二番手として世界で活躍する眞田

なお、眞田はシングルス準々決勝でも「以前はまったく歯が立たなかった」ウデに6-7、6-7と善戦。「東京パラリンピックでメダルを獲りたい」という夢を見据えて、今年はグランドスラムに出場することを目標に前進し続けている。

「グランドスラムに出られれば、国枝選手とダブルスを組む機会も増え、シングルスとダブルスの両方に気持ちを入れられるようになる」(眞田)

5月13日からは昨年、日本男子が優勝したワールドチームカップが始まる。眞田の成長で連覇の可能性は高まっており、楽しみは多い。東京2020パラリンピックでの栄冠に向け、JAPANは好材料を増やしつつある。

東京パラリンピックでの活躍も楽しみな国枝/眞田ペア
【天皇陛下御在位三十年記念 天皇杯・皇后杯 第35回飯塚国際車いすテニス大会 (Japan Open 2019)」リザルト】

男子シングルス:
1位 国枝慎吾(日本)
2位 ステファン・ウデ(フランス)
3位 トム・エバーリンク(オランダ)
3位 ヨーキム・ジェラード(ベルギー)
5位 眞田卓(日本)

男子ダブルス:
1位 ウデ/ペイファー(フランス)
2位 国枝慎吾/眞田卓(日本)
3位 エバーリンク/シェファーズ(オランダ)
3位 ヒューエット/リード(イギリス)

平成を締めくくる天皇杯をかけて熱戦が展開された

※世界ランキングは2019年4月29日時点

text by Yoshimi Suzuki
photo by Hiroaki Ueno

※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。

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