東京パラリンピック・自転車ロード会場で全日本開催。選手たちの反応は?

東京パラリンピック・自転車ロード会場で全日本開催。選手たちの反応は?
2019.07.03.WED 公開

6月27日から30日の4日間にわたって開催された「全日本自転車競技選手権大会 ロード・レース」。その初日に「2019日本パラサイクリング選手権・ロード大会」として個人タイムトライアルが行われた。

令和初の全日本チャンピオンを決する舞台となったのは、東京2020パラリンピックでロード種目の発着地点となる静岡県の富士スピードウェイだ。サーキットと敷地内の道路を回る今回のコースは、一部が本番と同じ。約1年後に迫る本番に向けて、国内トップ選手たちはバイクとともに高鳴る気持ちを走らせた。

富士スピードウェイのサーキットコースを両足義足で漕ぐ藤田征樹

ロードの女王・杉浦佳子「このコース、好きかも」

「この会場で走らせてもらい、東京パラリンピックが見えてきました」

2018年シーズン、パラサイクリングのロード主要4大会でロードレース全勝、タイムトライアルで3回優勝した“ロードの女王”杉浦(旧姓:野口)佳子はレース後、滑らかな口調で話した。

女子C1-5で優勝した杉浦佳子(右)と2位の藤井美穂。副賞には地元・静岡の名産品が贈られた

「今大会が富士スピードウェイで開かれ、実際にパラリンピックのコースを一部でも走らせていただけるなんて本当にありがたい。私にとっては、お金を払ってでも走りたいコースですから。下り坂やコーナーがある今回のコースは本当に難しく、前日の試走でコーチにライン取りを確認し、それを頭に叩き込んで臨んだ結果、思うような走りができたのは収穫です。タイムも目標を上回る22分46秒が出て、自分としては満足しています」

勝負どころで減速しない強い心肺機能の持ち主。フィジカルの強い海外選手に勝てるよう、パワーアップを最重要課題として取り組み、レースでの手ごたえも感じている。だが、今年はバイクのブランドを新しくしたこともあり、世界では思うような結果がまだ出せていない。

「私、このコースが好きかもって思えたので、メンタル的に少しプラスになったかなと思います。難しいコースは、走る回数を重ねれば重ねるほどタイムが伸びるので、東京パラリンピックでは地の利を生かしたレース展開をしてみたいなと。今日はちょっと明るい気持ちで帰れそうな気がします」

2016年の自転車事故で高次脳機能障がいが残った杉浦

昨年の秋に障がいクラスがC2からより軽度のC3に変更になった。金メダル争いは厳しくなるが「障がいの軽いクラスで戦えるのは嬉しい」と前向きだ。“ロードの女王”は、生まれ育った静岡の地で、東京パラリンピック金メダルへの決意を新たにした。

期待の女子タンデムペアがレースデビュー

杉浦も2人の子どもを持つアスリートだが、今大会は1歳の娘を持つママアスリートがパラサイクリングデビューした。山本(旧姓:塚越 )さくら。リオデジャネイロオリンピックの女子オムニアムに出場した健常のトップ選手だ。出産から復帰後、視覚障がいのある山口乃愛のパイロットとして東京パラリンピックを目指すことを決意。今年4月からパラサイクリングの合宿に参加している。

今大会でデビューした山本さくら(前)と山口乃愛(後)ペア

「パイロットになって初めて(なかなか屋外で練習できない)視覚障がいの世界を知りました。乃愛ちゃんはすごくやる気がある。でも、周りが声をかけていかないと(競技環境的に)厳しいと思うので、普段から『調子どう?』、『練習やってる?』とLINEでこまめにメッセージを送るようにしています」

そんな山本と初レースに挑んだ山口は、「すごく緊張したけど、さくらさんに『リラックス、リラックス』と言ってもらい、途中からは平常心を取り戻すことができました。出場は2組だったけど、1位になれたからよかったかな」と嬉しそうに微笑んだ。

「東京パラリンピック出場枠獲得のためのポイントは(杉浦)佳子さん任せだけれど、当然、レベルが低くては出場できないのでこれから二人で頑張っていきたいです」と山本は力を込めた。

女子Bで初優勝した山口(右から2人目)と山本(右)

リオパラリンピック日本代表の川本が存在感

男子C2-3種目は、実走タイム21分04秒90の川本翔大(C2)が、(障がいレベルによる係数をかけた計算タイムで)実走タイム20分58秒73の藤田征樹(C3)を上回って優勝した。

表彰台で握手する藤田(左)と優勝した川本(右)

藤田はリオパラリンピックのロードタイムトライアル銀メダリスト。その藤田より表彰台の高い位置に上がった川本は、充実した表情でレースを振り返る。
「今回のコースは上りがキツいけれど、テクニカルなコースで自分の得意なところを出せたかな。雨が降っていたけど、ビビらず集中して走ることができました」

川本は5月にベルギーで行われたワールドカップに出場し、ロードレースで18位、タイムトライアルで14位に終わった。その悔しさから今大会前の高地合宿に集中して取り組み、今年1月から新しくなったバイクもしっかりと乗り込むことができたという。

「あとはメンタルとパワー。東京パラリンピックのメダルを見据えて鍛えていきたいです」

雨も味方につけて攻めの走りで勝負する。よりパワーアップした川本が見られる日は遠くなさそうだ。

テクニカルなコースで力を発揮した川本翔大

そんな川本を横目に「負けたくない」と口にしたのは、長くパラサイクリングをけん引してきた藤田だ。昨年8月のケガから3月に復帰し、4月からは所属先も変えてこれまで以上に自転車に打ち込み、東京でのパラリンピック4大会連続メダルへの強い思いをにじませる。

この日はツール・ド・フランスに出場経歴がある新城幸也や別府史之らエリートのレースもあり、会場には自転車ファンの姿もあった。

「厳しい中にも勝負の楽しさがある。やはり全日本の雰囲気はいいですね」
そう静かに語る“元祖・雨男”は、巻き返しを誓って、東京パラリンピックのロード会場を後にした。

ハンドサイクルで3位の山木平良は地元・静岡の高校生だ
「コース取りが難しかった」と話したトライシクルの福井万葉

【2019日本パラサイクリング選手権・ロード大会 リザルト】
男子C2-3:1位 川本翔大 2位 藤田征樹 3位 相園健太郎
男子C4-5:1位 石井雅史 2位 沼野康仁
男子H1-5(ハンドサイクル):1位 松本亘 2位 村田成謙 3位 山木平良
男子T1-2(トライシクル):1位 福井万葉
男子B(タンデム):1位 木村和平/倉林巧和 2位 大城竜之/高橋仁
女子C1-5:1位 杉浦佳子 2位 藤井美穂
女子B:1位 山口乃愛/山本さくら 2位:栗原梢/小沼美由紀

男子Bは倉林巧和(前)木村和平(後)ペアが優勝

text by Asuka Senaga
photo by X-1

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