パラリンピック出場切符をかけた戦い、世界パラ陸上選手権~東京&その先で輝く新鋭編~

パラリンピック出場切符をかけた戦い、世界パラ陸上選手権~東京&その先で輝く新鋭編~
2019.12.17.TUE 公開

東京2020パラリンピックの出場枠をかけた今年最大の戦い「ドバイ 2019 世界パラ陸上競技選手権大会」。43人の選手が出場した日本は金3・銀3・銅7の計13個メダルを獲得し、4位以上に与えられる東京パラリンピック日本代表の内定を13人が手にした。

なかでも、晴れてパラリンピック初出場を内定させた22歳の佐々木真菜、25歳の唐澤剣也、20歳の兎澤朋美に加え、内定こそ手にできなかったが世界の舞台で堂々と渡り合った20歳の石田駆、24歳の井谷俊介ら新世代も躍進。ここでは、パラ陸上界を沸かせる若手注目選手の戦いを振り返る。

女子400m(T13)佐々木真菜
崖っぷちからの世界選手権内定第一号

400mで4位に入った佐々木真菜 ©takao ochi

大会初日。400m(T13/視覚障がい)で4位になり、世界選手権での“内定第一号”のニュースで日本チームを勢いづけたのが東邦銀行陸上競技部で健常者と一緒に練習する佐々木真菜だ。目標の大舞台への内定を喜びつつ、記録は58秒38で目標の57秒台とメダルに届かなかった悔しさが大きいようだった。

「充実した大会になったが、まだトップ選手との差が開いている。あと少しというところまで来ているので、走力、持久力、メンタル面で強くなれるよう頑張りたい」

7月のジャパンパラで58秒98のアジア新記録を樹立。同時に崖っぷちで世界選手権への出場も決め、涙を流した。福島出身で今も福島を拠点にする佐々木は高校時代、放射能の影響で屋外で練習することがままならず、思い切り練習できる現在の環境への感謝の思いがあふれてのことだった。周囲の人たちの笑顔を原動力にひたむきに練習を積む佐々木は「200mでも400mでも遠心力に負けて外に腕が振れてしまうことがある。体幹を鍛えて軸がブレないようにしたい。冬季トレーニングも雪の中で頑張りたいと思います」と充実した表情で競技場を後にした。

男子5000m(T11)唐澤剣也
積極性とチームの支えで急成長!

5000mで銅メダルを獲得した唐澤剣也(ガイドは茂木洋晃) ©Getty Images Sport

視覚障がいクラスはもうひとりニューヒーローが誕生した。唐澤剣也。本格的に競技をスタートさせたのは2016年という新鋭。東京パラリンピックを目標に掲げ、約10人の伴走者たちとチームを結成し、平日も仕事の前後に中身の濃い練習を積んでドバイに入った。

大会序盤の1500m(T11)では決勝で最下位に終わり、世界の高いレベルを痛感。「スピード不足やラストの切り替えなどの課題が見つかった」。レース後に落ち着いて語り、反省点は次への宿題とした。

そこから5日を挟んで迎えた5000m。レースは昼間に行われたが、厳しい夏の暑さで知られる群馬を拠点とする唐澤にとってドバイの灼熱は特別なことではない。万全のコンディションで臨んだ唐澤は会心のレースを見せた。レースは後半に勝負する作戦。その終盤は接触もある激しい展開になり、強豪のケニアとロシアを必死に追い、4位でフィニッシュ。その後、日本の和田伸也が失格となったことで唐澤は銅メダルを手にした。

タイムも15分48秒21のセカンドベスト。メダルを胸にかけ「ようやく実感が沸いてきた」とほほ笑んだ唐澤は、「自信になった。積極的な走りが自分の良さだが、海外勢は強い。さらに上のタイムを目指したい」と来年の本番を見据えた。

また、同種目は2人の伴走を認められるため、今回は前半をスピードのある茂木洋晃ガイド、後半を駆け引きに優れる星野和昭ガイドが務めた。交代したガイドはメダルをもらえないルール。報道陣に意見を求められ「僕たち以外にもガイドがいるので、かえってメダルがかからないほうがいい」と星野ガイド。唐澤を支えるチームの結束を象徴するようなコメントだった。

女子走り幅跳び(T63)兎澤朋美
世界選手権初出場でメダリストに!

伸び盛りの兎澤朋美も大学生ジャンパーだ ©takao ochi
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男子400m(T46)石田駆
パラ転向後1年未満で世界5位!

400mで惜しくも5位だった石田駆 ©Getty Images Sport

「自分の体に障がいがあることを責めず、大きな目標に向かって頑張る。その思いは国内選手も海外選手も同じだと実感することができた。パラに転向して間もないが、(ここで頂点を極めたいという)モチベーションは上がっている」

世界選手権を振り返り、そうコメントしたのは愛知学院大2年の石田駆だ。中高と陸上競技に没頭し、高校総体にも出場。2018年に骨肉腫で左腕に機能障がいが残り、今年パラの世界に参戦したばかりだが、立て続けに好記録を出している逸材である。

存在感は見せた。専門種目の400m(T46/片上肢機能障がいなど)では予選3位通過で決勝へ。決勝ではスタートから勢いよく飛び出し、ぐんぐんスピードに乗ったが、フィニッシュの手前で抜かれて5着。49秒44の日本新記録をマークしたものの、4位以内に与えられる内定を手にできず。「5位は一番出してはいけない順位」と頭を抱えた。

それでも、今まで歯が立たなかった男子立位の短距離走で日本人が上位に食い込み、指宿立強化委員長ら関係者も「感慨深い」と喜びを隠さない。

高校時代の48秒68が自己ベスト。今後は「健常のときの記録を抜く勢い」でタイムを縮め、2020年4月1日時点の世界ランキング上位6人に入ることで与えられる東京パラリンピック出場枠獲得を狙う。

男子100m(T64)井谷俊介
初の世界選手権で100mの決勝に進出!

100㎜で決勝に進出した井谷俊介 ©takao ochi

2017年に陸上競技を始めたばかりの井谷俊介も、初の世界選手権で見事、本命100mのファイナリストになった。

結果は11秒63で8位。スタート後の走りもよく、課題にしていた地面にパワーを伝える動きにも手ごたえがあったが、「海外勢に及ばなかった。これが今の実力」と潔く語る。

花形100mの決勝を経験し「人生の中で一番楽しいというくらいいい経験ができた。パラリンピックはもっと違うと思うのでそこだけを目指して頑張りたい」。悔しさを胸に秘めた井谷は、パラリンピックの決勝の舞台を思い描き、向上心を燃やし続ける。

男子やり投げ(F46)高橋峻也
大舞台で自己ベストのパフォーマンス!

やり投げで自己ベストを記録した高橋峻也 ©takao ochi

国内競技レベル底上げにより3人が世界選手権切符を手にした(F46/上肢障がい)のやり投げ。日本記録保持者の山﨑晃裕(7位)を上回る6位の位置につけたのが日本福祉大学生の高橋峻也だ。4投目で自己新の57m20を記録し、一時は4位に上がり、世界で戦える可能性も感じさせた。

「悔しい気持ちが100パーセント。最後までしっかり記録を伸ばし続ける外国人との力の差を感じた」

野球で鍛えた強肩を活かしてやり投げを始めた21歳。「冬季練習でしっかりと弱点を克服したいと思う」。ドバイの地で新たな一歩を踏み出した。


【世界の若手注目選手!】

両足義足の世界記録を更新!
ヨハネス・フロアーズ(ドイツ)

100mと400m(T62)で世界新記録を打ち立て、現地で注目を集めていたのが両足下腿義足のヨハネス・フロアーズ。ドイツの24歳。片下腿義足選手と同走だった100mで優勝し「タフなレースになった。(後半の伸びが特徴だが)最後までスピードをキープし、絶対に勝利したいと思っていた」。東京パラリンピックでも記録更新なるか。

ドイツのJohannes Floors ©Getty Images Sport

視覚障がいの若きホープ!
ジャリッド・クリフォード(オーストラリア)

オーストラリアの20歳。クラスはT12だが、T13の2種目に出場し1500mでは3分47秒78の世界新記録で優勝。2人のガイドと走った5000mでも驚異のラストスパートで金メダルを手にした。普段はオリンピック選手らとトレーニングしており、東京でも2冠が期待される存在。「とにかく金メダルを最低1つは獲得したい!」と意気込んだ。

オーストラリアのJaryd Clifford ©Getty Images Sport

▼ドバイ 2019 世界パラ陸上競技選手権大会
日本選手の結果はこちら

text by Asuka Senaga
key visual by Getty Images Sport

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