ベテランから若手まで国内トップが東京・駒沢に集結! 「第28回日本パラ陸上競技選手権大会」の見どころ

ベテランから若手まで国内トップが東京・駒沢に集結! 「第28回日本パラ陸上競技選手権大会」の見どころ
2017.06.01.THU 公開

パラ陸上競技の日本一を決める、IPC(国際パラリンピック委員会)公認の第28回日本パラ陸上競技選手権大会が6月10日から2日間にわたって、東京・駒沢オリンピック公園陸上競技場で開催される。同選手権が東京都で実施されるのは初めてで、過去最多となる約250選手が集まり、頂点を競い合う。

東京パラリンピックを3年後に控えた今大会には、リオパラリンピックの日本代表から初出場の若手まで国内トップクラスの幅広い選手が顔を揃えた。今年7月には世界パラ陸上競技選手権ロンドン大会の開催も控え、興味深いライバル対決や記録更新の期待など見どころは多い。特に今大会を前に記録を伸ばし、世界ランキングをアップさせるなど急成長を見せる選手に注目する。

有力選手が多い走り幅跳び

世界選手権代表選手も多く、今や日本の強みのひとつとなった走り幅跳び。なかでも見逃せないのが、右上肢障がいの芦田創(T47)だ。今年3月、オーストラリアの大会で自己記録を一気に31cmも伸ばす7m15の日本新記録を樹立し、世界ランキングも3位にアップした。先のリオパラリンピックに初出場し、4x100mリレー(T42-47)の第1走者として銅メダル獲得に貢献するも、専門の走り幅跳びでは12位に終わった。不甲斐なさとともに帰国し、自身のパフォーマンスを根本から見直した。特に助走のフォームをこれまでの2軸走行から、重心を体の中央に寄せることを意識した1軸走行へと変えたことで前方への推進力が増し、助走速度がアップ。実際、今年に入って100mの自己記録も4年ぶりに更新し、11秒58まで伸び、それが跳躍にもつながっている。課題は、高い走力を無駄なく跳躍力へと変える踏切動作の技術向上と精度を高めること。見えてきた世界選手権表彰台への自信をつかめるか。日本選手権はその試金石になる。

リオ後、「陸上の知識がある人に教わりたい」と思うようになったという前川
リオ後、「陸上の知識がある人に教わりたい」と思うようになったという前川

女子も有望なジャンパーが多いが、芦田同様にリオパラリンピックでの悔しさを成長につなげ、勢いを増すのが右大腿義足の前川楓(T42)だ。リオでは3m68の自己新を記録するも4位。「このままじゃダメだ」という思いが、“運命の出会い”につながった。今春から元オリンピック走り幅跳び日本代表の井村久美子さん(旧姓・池田)に師事する。出会って間もないながら、「踏切の最後の一歩を意識して手前につく」というわずかなアドバイスで助走の推進力を無駄なく跳躍へとつなげられるようになり、5月初旬の大分パラ陸上では3m97の大ジャンプで日本記録を更新。世界選手権での目標達成を「4mが目標だったけど、もっと上に。4m30くらいかな」と上方修正している。

また、知的障がいクラス(T20)、山口光男も5月中旬にタイ・バンコクで開催された2017INAS世界陸上選手権大会で6m77をマークして、自身のもつ日本記録を塗り替えたばかり。その勢いのまま、持ち味のダイナミックなジャンプを披露するつもりだ。

3年後が楽しみな若手が出場する短距離種目

成長著しい佐々木(中央)と佐藤(右)
成長著しい佐々木(中央)と佐藤(右)

短距離種目は特に、3年後の東京で初のパラリンピック代表を狙う若手の台頭が著しい。その一人は、視覚障がい(T13/弱視)の佐々木真菜で、大分パラ陸上で200m(26秒71)、400m(1分00秒41)と相次いで日本記録を更新した。2016年から東邦銀行の陸上部に所属し、健常の選手と練習に励み、冬場の筋力トレーニングで太腿や臀部をパワーアップしさせた。メインは400mで、「まずは1分切り。今季中に58秒台まで狙いたい」と話す。駒沢の舞台を、初選出の世界選手権への足がかりにする。

佐々木と同じT13クラスで、所属先の先輩でもある佐藤智美も5月中旬、中国の大会で100mの日本新記録(12秒95)を樹立した。練習では走れても、レース本番で力を発揮しきれない時期が続いていたが、「世界と戦うには、絶対に切らなければ」と目指してきた「13秒の壁」をようやく突破した。佐々木と互いに刺激し合いながら、世界上位との差をこのまま一気に詰めていく。

車いすクラス(T54)の100mでは、ともに初の世界選手権代表を射止めた生馬知季、西勇輝に期待がかかる。スタートダッシュに定評があり、地道な筋トレで力強さが増している2人。最近のスイス遠征でもそれぞれ自己ベストを更新するなど好調だ。持ちタイムでは生馬に少し歩があるが、切磋琢磨で高みを目指す。

強豪揃いで観衆を沸かせる中距離レース

選手層が厚い車いすクラス(T54)で今、最も勢いがあり総合力で充実しているのは渡辺勝だろう。2月の東京マラソン優勝でスタミナとラストスパートの切れ味を示し、春の海外遠征では400mや800mで自己ベストを更新。5月末のスイスの大会では5000m(9分50秒55)の日本新記録を樹立した。リオパラリンピック出場を逃して改めて自らと向き合い、「高速レースへの対応」という弱点克服に取り組み、手応えを得たという。世界ランキング3位につける1500mも含め、今日本選手権で世界基準の走りを見せるつもりだ。

そんな渡辺の独走に待ったをかけるのが、リオパラリンピックで2種目入賞の快挙を果たし、現在1500mで世界ランキング1位の樋口政幸や、400m、800mで自己ベストを更新したばかりの若手、鈴木朋樹だ。スピード感と迫力にあふれ、駆け引きが鍵となるレース展開は、観衆を多いに沸かせることだろう。

リオパラリンピックで2種目銀メダルの佐藤友祈(T52)も進化し続けている。5月中旬のアメリカの大会ではライバルのアメリカ選手と競り合い、400m(56秒35)と1500m(3分40秒48)で日本記録を更新。勝負強さも増した世界トップの走りを駒沢で披露する。

視覚障がい(T12/弱視)1500mに出場する、リオパラリンピック・マラソン銀の道下美里のリズミカルな走りにも注目だ。3年後の東京パラリンピックでの金メダル獲得に向け、今季の目標をスピード強化に置き、5月中旬には5000mの日本記録(19分10秒)を14年ぶりに塗り替えた。今大会では約11年前に自身が出した1500mの日本記録更新を目指す。

東京マラソンで優勝し、存在感を発揮している渡辺
東京マラソンで優勝し、存在感を発揮している渡辺
リオパラでの活躍が記憶に新しい佐藤
リオパラでの活躍が記憶に新しい佐藤

その他、今回の日本選手権では、リオパラリンピックで銅メダルを獲得した立位(T42-47)4×100mと、5月のスイス大会で13年ぶりに日本記録(3分11秒36)を更新した車いす(T53-54)4×400mのリレーも行われる。ともに国内大会では実施機会が少ないこともあり必見だ。

3年後に迫った東京パラリンピックへ向け、日本のパラ陸上界にとって新たな一歩となる今大会。頂点に立つのは果たしてベテラン勢か、あるいは新星か。熱戦の幕はまもなく切って落とされる。

※カッコ内はクラス。パラ陸上では、障がいの種類やレベルにより区分され、それぞれのクラスで順位を競う。

※世界ランキングは、世界パラ陸上競技選手権大会参加資格ランキング(対象期間2016年1月1日~17年6月5日)の2017年5月31日時点の順位。

text by Kyoko Hoshino
photo by X-1

ベテランから若手まで国内トップが東京・駒沢に集結! 「第28回日本パラ陸上競技選手権大会」の見どころ

『ベテランから若手まで国内トップが東京・駒沢に集結! 「第28回日本パラ陸上競技選手権大会」の見どころ』