45年ぶり! アーチェリー・上山友裕が挑んだ「国内最高峰の舞台」と、普及への思い

45年ぶり! アーチェリー・上山友裕が挑んだ「国内最高峰の舞台」と、普及への思い
2021.10.26.TUE 公開

10月23日と24日、国内最高峰の大会「第63回全日本ターゲットアーチェリー選手権大会」が静岡掛川市のつま恋リゾート彩の郷で行われた。アーチェリー上山友裕(リカーブ男子)は、リカーブ部門の車いす男子選手としては実に45年ぶりに出場を果たし、東京2020オリンピックの銅メダリストをはじめとした国内のトップアーチャーたちとの競演を果たした。

すごい選手たちの中でやってんねんな

「甘くありませんでした」

大学生のころから競技に打ち込み、いつかはこの大舞台に立ってみたいと願い続けてきたという上山。念願の初出場を終えての感想を聞かれると、開口一番、渋い表情とともにそう吐露した。

調子が上がり切らなかったせいか、時折、渋い表情を見せることも

アーチェリーは、健常とパラの垣根がない競技だ。実際、上山は当たり前に健常の選手たちと練習を重ね、試合で競い合ってきた。最高峰の舞台という意味では、すでに社会人のみを対象とした全日本社会人ターゲットアーチェリー選手権(リカーブ一般男子)にも出場歴がある。今大会でも顔なじみが多く出場していたこともあり、「緊張しなかった」というが、終わってみれば89人中81位。力の差を感じる結果となった。

「途中、いま課題にしているミスが出て、0点、2点、4点を射ってしまったんです。これまで出場してきた大会では、それでも後で点数を取り返せば順位を上げることができた。でも、この大会では、取り返しても順位が上がりませんでした。こんな感覚、初めてで。やっぱ、すごい選手たちの中でやってんねんな、と改めて思いました」

「車いすの選手だから、という感じが全くない。社会が目指すべき姿がアーチェリーにはある」(上山)

新型コロナ対策のためとはいえ、競技方法が変わったことも残念ではあった。

従来は、予選ラウンドとして72射の合計点で順位を決め、32位までに入った選手が、トーナメント方式の決勝ラウンドに駒を進める。決勝ラウンドは、1対1で、交互に1本ずつ矢を放つ。神経戦となるのはもちろん、風の状況などの運も関わってくるため、かつて上山も「決勝ラウンドに出られれば勝機はある」と発言していたように、下剋上も十分あり得るのが魅力の競技方法だ。ところが、今大会では、従来の予選ラウンドのみで順位を確定することとなった。この方式では下剋上の要素は薄くなる。上山も頭を切り替え、従来の決勝ラウンド進出ラインである32位以内に入ることを目標にしていたというが、そこにも手が届かなかったことになる。しかし、今大会の32位は、640点。上山本来の射ができれば、クリアできたラインではあった。

矢取りの間、スコープをのぞき、点数を確認する

「(全12エンド中)2エンド目までは36位だったので、自分の力が発揮できていたらと思うと、もったいないことをしたなと思います」

健常のアーチャーと同じ射線に並び、的を射る

パラアーチャーが大舞台で結果を出すために

とはいえ、現時点で、オリンピック出場を狙う選手たちとの間に力の差があることは、残念ながら否めない。また、東京2020オリンピックで、アーチェリー日本代表は個人、団体ともに銅メダルを獲得したが、パラリンピックでは、十分にメダルを狙える力がありながらメダルなしに終わった。

同じくリカーブ女子に出場し、先に競技を終えた重定知佳と言葉を交わす

この東京での経験を「がんばったけど、残念だった」で終わらせるには、いかにももったいない。次へつなげるためにも、パラアーチェリー界が健常のアーチェリー界から学べることがあるのではないか。その点について上山に率直に尋ねたところ、上山はパラ界の競技力向上を図るうえでの課題として、二つ挙げた。

一つは、ベースとなる競技力を上げることだ。そのポイントとして、練習量とともに、知識と経験の継承を上山は挙げた。

実は今大会の出場者の多くを占めたのが、近畿大学の学生やその出身者たちだ。近畿大学は、東京オリンピック銅メダリストの古川高晴をはじめとしたオリンピアンや世界レベルの選手を多数輩出。長年、日本のアーチェリー界は、近畿大学がけん引しているといっていい。上山は同志社大学出身なのだが、上山のコーチは近畿大学出身。上山には、ほかにも近畿大学関連の友人、知人が多数いる。

「近畿大学の学生さんやOB、OGの方たちと交流する機会も多いのですが、彼ら、彼女らを見ていると、ここまで練習しているのかと思わされますし、考え方も違うなと思います。近畿大学の方たちは知識や経験の継承にも熱心に取り組んでいて、それを吸収した選手たちがオリンピックを目指すレベルへと成長しているんです」

今大会の上位選手には近大関係者がズラリ。オリンピック銅メダルの古川高晴(前列左から3人目)も近大職員だ

近畿大学では、王者のDNAが脈々と受け継がれているのだ。その薫陶を受けている上山はパラアーチェリー界にとって貴重な存在であり、上山自身もそれを自覚している。

「今日も試合後に近畿大学OBの方にあいさつに行ったら、『甘かったな』なんて言われて(笑)。いろいろと教えていただいているので、パラ界のベースを上げるために、今度は僕がそれを次へとつなげていきたい」

バラエティ番組で競技普及を

上山が課題の二つ目に挙げたのが、競技の普及だ。

「とにかく日本のパラアーチェリーの競技者数が少な過ぎます。僕が東京に向けてがんばってきたのも、少しでも多くの方にパラアーチェリーを知ってもらい、競技人口を増やしたい一心から。普及の最大のチャンスだった東京2020大会が無観客開催となり、本当に残念でした。3年後のパリ大会に向けて、今から普及に取り組む必要があると思っています」

一週間前のパラアーチェリーの大会では4連覇達成。普及や強化にも力を入れ、2位の選手と一緒に練習をする予定だという(上山)

上山にはすでにアイデアがある。一つは、トーナメント方式が行われる大会に観客を入れ、競技をしながら自ら実況することだ。

「うれしいことに、僕個人を応援する中でアーチェリーにも興味を持った、試合を見てみたいという方がいらっしゃいます。そういう方たちに、僕が国内で優勝できる力がある間に、ぜひ生で観戦していただきたい。ただ見ているだけだとわかりづらいこともあると思うので、試合中に僕が解説することで、より楽しんでいただけるのではないかと思っています」

また、障がいのある人たちが競技を始めやすい環境づくりにも思いを馳せている。

「過去に出演したイベントのパラスポーツの競技体験コーナーでは、アーチェリーが大人気で、やってみたいという人がめっちゃ多かったんです。そういう方たちが気軽に始められて、しかもきちんとした技術が身につくアーチェリースクールができるといいなと思っています。車いすでもアクセスしやすい場所だと、もっといいですよね。そこに僕が関わることで、『車いすだけど体験に行っていいですか』という質問をなくしたいです」

 「(嵐の)相葉(雅紀)くんがオリンピックを振り返るテレビ番組で、パラの僕を取り上げてくれて。もっと普通にパラの話題が出るようになったらいい」(上山)

さらに、テレビのバラエティ番組にもどんどん出演したいという。

「かつて、僕がアーチェリーを見てくださいと言っても、だれも振り向いてくれませんでした。でも、SNSや講演会、イベントなどを通じて僕自身を知ってくださった方が、僕を通してアーチェリーにも興味を持ってくれたんです。だから、まずは多くの方に僕自身を知っていただきたい。そのためにも、楽しみながら見ていただけるバラエティ番組がいいと思ってます。実は先日、バラエティ番組の収録に参加したのですが、どっかんどっかんうけて、共演者の方たちからも『すごい』って言っていただいたんです。僕、完全に覚醒しました(笑)」

競技普及に向けて熱い思いを持つ上山が、テレビの向こうで活躍すれば、それはパラスポーツ全体にとってもプラスのはず。上山が笑いをとる姿、見てみたいと思いませんか。

美しい天然芝の射場で、健常とパラのトップアーチャーたちが競い合った

text by TEAM A
photo by Haruo Wanibe

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