日本財団パラリンピックサポートセンター

車いすラグビー日本代表チームのトレーナー 岩倉 瞳さん

車いすラグビー日本代表チームのトレーナー 岩倉 瞳さん
2019.10.10.THU 公開

東京2020パラリンピックで金メダル獲得が期待される、車いすラグビー日本代表チーム。競技用車いすで激しくぶつかり合う選手たちのケアやトレーニングを行う縁の下の力持ちとして、今やアスレティックトレーナーの存在は欠かせません。日本代表の専任トレーナーを務める岩倉 瞳さんに、需要高まるトレーナー職の実際についてお聞きしました。

<パラアスリートを支える女性たち Vol.08>
いわくら・ひとみ(35歳)
一般社団法人日本車いすラグビー連盟 
メディカル部会トレーナーリーダー、アンチ・ドーピング部会員、日本代表強化チームトレーナー


岩倉さんはフリーのアスレティックトレーナー。複数のスポーツ関係の団体やチームと、個人で業務委託契約を結んでいます。現在2つの専門学校で勤務しながら、横浜市立高校サッカー部トレーナーと車いすラグビー日本代表強化チームの専任トレーナーを務め、また選手個人からの依頼を受ける形でパーソナルトレーナー業も展開しています。この日は岩倉さんが日本代表強化指定選手の乗松隆由選手とトレーニングを行う現場にうかがいました。


「いつどんな要請があってもすぐ動けるように、フットワークの良い働き方を選びました」(岩倉さん)

トレーナーは選手が最大限のパフォーマンスを発揮するための影の協力者

━━まず、今日のパーソナルトレーニングの目的から教えてください。

岩倉さん(以下、岩倉)「日本代表チームの業務で現場に入ったとき、乗松選手を見ていてもう少し体幹のトレーニングの量を増やしたほうがいいのではと感じて本人と話をしたんです。じゃあパーソナルでがっつりやっていこうと、個人のトレーニングを開始しました。

基本的にトレーナーはトレーニング指導からケガの予防やサポートまで行います。私は鍼灸あん摩マッサージ師なので必要に応じて鍼灸やマッサージなども施術します。車いすラグビー選手は頚髄損傷など重度四肢障がい者が対象です。障がいの状態は選手それぞれ違いますし、疲労の抜けぐあいも異なります。ですので実際に筋肉を触ってみて、そのとき必要だと感じたメニューをその都度アレンジしているんです。最終的に選手のパフォーマンスを最高のものに導くことが目標です」

━━乗松選手はパーソナルトレーニングのどのような部分が助けになると感じていますか?

乗松選手「たとえば、腕のストレッチをしたいとき。僕はシャルコー・マリー・トゥース病(主に遺伝子異常による末梢神経疾患の総称)という障がいのために肘から下の筋力がないので、腕をそんなに伸ばせなかったりするんです。そこを岩倉トレーナーにゆっくりストレッチをかけてもらうと、自分の筋肉が少しずつちゃんと伸びていくのが感じられる。能動的ではないですが決して受動的というわけでもなく、適度な緊張感のある気持ちのいい時間だと感じています」

━━確かに、見学していたときもおふたりは二人三脚のように互いに協力しあいながらストレッチを行っている印象がありました。ちなみに岩倉さんが車いすラグビーのトレーナーを始めたきっかけって何ですか?

岩倉「トレーナーの先輩からの紹介です。『一緒にやって欲しい』と声をかけていただいて、そこで車いすラグビーチーム「横濱義塾」の練習にお邪魔したら競技にひとめ惚れしてしまったんです(笑)。迫力やスピード感、激しさに圧倒されました。それまで自分がもっていた障がい者スポーツのイメージとはかけ離れていたこともすごく印象に残りました」

「試合ではどうしても攻撃型(ハイポインター)の選手に目を引かれがちです。相手側のハイポインターを止めて味方を助ける守備型(ローポインター)選手の職人技な動きにもぜひ着目してみてください」(岩倉さん)。写真は、ローポインターである乗松選手の競技用車いす。

アスリートの筋肉が語る言葉に耳をすませる

「トレーナー業務を行う知識を得るために専門学校に通ったり、指圧師の国家資格も取得しました」(岩倉さん)

━━車いすラグビー選手と健常者アスリート、これまで両方のトレーナーを経験してきた中で体感していることがあれば教えてください。

岩倉「車いすラグビー選手と健常者アスリートの身体の顕著な違いを上げるとしたら、車いすラグビー選手はマヒによる機能制限のために使える筋肉が限定的なので、極端に部分的に疲労がたまりやすい傾向にあるということでしょうか。しかし制限があるからこそ思わぬ部分が鍛えられるのか、身体を触ったときに“えっ、この筋肉がこんなにも発達するんだ!”と気づいて驚かされることもあります。人の体のもつ力は不思議なものです。

また人それぞれ個人差があること自体は、健常者も障がい者も変わりません。ですが障がい者の場合は障がい自体にも微小な個人差があり、そこに筋肉や身体の使い方のくせや競技特性が加わると、さらに複雑な違いや差が生じてきます。指導するにしても個別の細かな工夫が必要です。そこで私はまず目の前にいる選手ひとりひとりの身体にフォーカスして詳細まで把握して、じっくり理解することを大切にしています。

ちなみに私が今参加している車いすラグビー日本代表強化チームではアスレティックトレーナーのほかに、鍼灸マッサージ師や理学療法士、カイロプラクターを含めて5名のスタッフがチームとして活動をしています。それぞれの知識や技術を持ち寄って協同しながらサポートを展開しているので、コミュニケーションの大切さを再確認するという気づきもありました」

将来アスレティックトレーナーを目指す人が知っておきたいこと

━━プロフィールを拝見すると、今日に至るまでに本当にさまざまなトレーナーの仕事を積み重ねられておられます。これから目指したい人にアドバイスをお願いします。

岩倉「はい。まず私がトレーナーを目指し始めたのは、遥か昔の中学時代でした。当時はインターネットがなかったので、いったいどこに行けばトレーナーになれるのか、情報を見つけることからして大変でした。仕方なく国語辞典で「トレーナー」と引いたら洋服のことしか載っていなかったという(笑)、笑い話のような思い出があります。最終的に本屋さんで就職情報誌をめくって、スポーツ関係の仕事を探したんですよね。

今は検索すればすぐにさまざまなスポーツ系の専門学校や養成校がヒットし、アスレティックトレーナーの資格情報も充実しています。学校に行けば総合的な知識や技術を身につけられますし、資格取得でできることの幅も広がります。でもそれに加えて、自分はどの種目の選手をサポートしたいのかもとても大切なことなんです。

まずはアンテナを広く張って、最初はいろいろな競技に目を向けてください。そのうえでトレーナーとしてたくさんのスポーツに興味をもつのもよし、専門の種目を決めて絞って極めるのもいいでしょう。そのプロセスには必ず今後の道筋に役立つ情報が転がっていると思いますし、もしかしたら自分がのめりこみたくなるほど魅力的な選手や競技に出合うこともあるかもしれません。

意外に思うかもしれませんが、人とのつながりやご縁もとても大切です。この仕事は人を通じてやってくるというのが経験からの体感です。どんな仕事も人とつながって会話をすることでさらに大きく広がります。ぜひ今から心がけてみてください」

「仕事のときはミューラーのトレーナーバッグです。テーピングテープや愛用のハサミなど、トレーナーの七つ道具を持ち歩きます」(岩倉さん)

(後編に続く)

text by Mayumi Tanihata
photo by Yuki Maita(NOSTY)

一般社団法人日本車いすラグビー連盟
https://jwrf.jp/
*競技用車いすに乗ることができる体験会は随時開催

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*今後の主な大会
2019年10月16日 ~ 20日 車いすラグビーワールドチャレンジ2019(東京体育館)

車いすラグビー日本代表チームのトレーナー 岩倉 瞳さん

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