2019 ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会、それぞれの涙と笑顔

2019 ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会、それぞれの涙と笑顔
2019.05.23.THU 公開

ITU世界パラトライアスロンシリーズ第2戦の横浜大会が5月18日、快晴の山下公園周辺特設コースで開かれ、総勢70人(男子41人、女子29人)の選手たちが障がい種別男女各6クラスで火花を散らした。日本からの出場は男子5選手、女子4選手。そのうち男子PTS4(立位)の宇田秀生が1時間04分27で3位の表彰台に上がった。女子では2017、2018年の優勝に次ぐ3連覇が期待されたPTWC(座位)の土田和歌子が4位、PTS4の谷真海は2位といずれも連覇を逃す結果となった。

日本勢男子唯一の表彰台に食い込んだ宇田

世界シリーズにおける宇田の表彰台は、昨年7月のエドモントン大会の2位以来だ。水温21度、ほぼ風のない穏やかコンディションのもと、「自分のペースを守ることを心がけた」というスイムでは8人中7番手と出遅れたものの、得意のバイクで同クラスのトップタイムを叩き出し、続くランでも粘り強い走りで怒とうの追い上げを見せた。

引き締まった面持ちでスタート位置に向かった宇田

「バイクとランは結構いいレベルで勝負できるのがわかったので、スイムでもうちょっといい位置で上がれれば」と宇田。それにはいかに最短距離で泳ぎロスをなくすかが課題だという。

ただ、4月に行われた同シリーズ第1戦ミラノ大会(4位)から心身ともに調子は良いといい、「パフォーマンスは満足できるものだった。東京2020パラリンピックまで(残りの時間が)短いという選手もいるが、僕はちょうどいいかなと思っている」と好調ぶりをアピールする。また同時に全体的なパフォーマンスを上げていく必要性を自ら指摘し、東京パラリンピックの目標については、「金メダルと言いたいが、今は堅実に銅メダルから狙っていきたい」と控えめなコメントにとどめた。

3位に入った宇田はレースを冷静に振り返る

その他の男子は、PTWCの木村潤平、PTS2(立位)の中山賢史朗、PTS5(立位)の佐藤圭一がともに5位、PTVI(視覚障がい)の中澤隆が11位だった。

土田はバイクで痛恨のペナルティ

同大会3連覇に挑んだパラリンピック界のレジェンド土田はこれが今シーズンの初戦とあって、自身への期待も大きかったはずだ。しかし、今大会は東京パラリンピックを来年に控えたタイミング。海外の選手たちも実力を上げていることを痛感し、バイクでは道幅の狭いパートでドラフティング(※1)を取られ痛恨の1分間ペナルティを課されるアクシデントにも見舞われた。それでも本人はいたって前向きで、「気持ちを切らさず最後のランにつなげられたこと、また順位を少し上げられたことはプラス。得意のランでは2人の選手を抜いた記憶がある」とレースを振り返る。

※1 ドラフティング:バイク走行時に風の抵抗を軽減するため、前走者のすぐ後ろを走行すること。
2種目目のバイクで力走したが……

そんな土田の課題は、やはり1種目のスイムだ。2018年1月のトライアスロン転向を機に本格的に始めたスイムは、ようやくタイムを狙って泳ぎ切るレベルに来たものの苦手意識は拭えないという。「やはり3種目とも高いレベルにないとなかなか優勝はできない」と土田。

次戦は6月に韓国・キュンジュで開催されるASTCアジアパラトライアスロン選手権になるが、そこからの成績はいよいよ東京パラリンピックの代表選考に直結していくため、「世界ランキングを上げないとパラリンピックの出場権は得られない。出場権を得るために来月からまた頑張っていきたい」と夏冬合わせ自身8回目となるパラリンピック出場に闘志を見せた。

レース後、土田は笑顔を見せて前を向いた

義足一本化の英断も現実の厳しさに涙の谷

谷にとっては試練の大会となった。昨年11月、東京パラリンピックで谷のクラスであるPTS4とそれよりも障がいの程度が軽いPTS5(立位)の統合が決まり、今年の世界シリーズ横浜大会もその新形式に則ってレースが行われた。結果、谷はPTS4では2位だったが、PTS5も合わせると5位。「力の差を感じた。正直、今は危機感しかない」と涙を浮かべた。

「PTS5の選手と一緒にスタートするのは初めてなので、最初から思い切って行こうと思っていた」と話すスイムでは好スタートを切り、PTS5の第2集団と遜色ないタイムで上がってきた。しかし、トランジション(※2)の義足交換で引き離され、さらにバイクでも3人の選手に抜かれ順位を落としていった。

※2 トランジション:スイムからバイク、バイクからランへと種目を移行すること。タイムに影響するため「第4の種目」とも言われる。
トランジション短縮のため、改良した義足で走った谷

失速には理由がある。トランジションでのロスを減らすため、これまで別々だったバイクとランの義足を一本化したのが影響した。バイクとランを同じ義足で走るという構想は昨年からあったそうだが、実際に試作品が出来上がってきたのは今年の3月上旬。そこから2ヵ月程度のトレーニングで本番に合わせてきたため、義足に力を伝えるスキルとパワーが追いついていないのだ。

谷はバイクのタイム短縮を今後の課題に挙げた

しかし、その一方では義足交換が要らなくなったことで、「以前よりも50秒程度の短縮ができたのではないか」と谷のサポート陣営は話す。これは明るい材料で谷本人も「バイクからランへのトランジションはスムーズにいった。そこは改善できた点。義足を一本化したことには納得している」と話し、「(東京パラリンピックまで)まだ1年ある。練習量を多く積んでいける体を作って、バイクのパワーとスキルを身につけていきたい」と必死に前を向いた。

その他の女子はPTS2の秦由加子が6位、PTVIの円尾敦子が6位だった。

【ITU世界パラトライアスロンシリーズ リザルト】

女子
PTWC:1位 ジェイド・ホール(イギリス)、2位 ケンドール・グレッチ(アメリカ)、3位 ローレン・パーカー(オーストラリア)
PTS2:1位 アリッサ・シーリー(アメリカ)、2位 フラン・ブラウン(イギリス)、3位 リーサ・リリヤ(フィンランド)
PTS3:1位 アナ・プロトニコワ(ロシア)
PTS4:1位 ケリー・エルムリンガー(アメリカ)、2位 谷真海
PTS5:1位 グレイス・ノーマン(アメリカ)、2位 クレア・キャシュモア(イギリス)、3位 グラディース・ルムシゥ(フランス)
PTVI:1位 スサーナ・ロドリゲス(スペイン)、2位 ケイティ・ケリー(オーストラリア)、3位 メリッサ・レイド(イギリス)

PTS2で6位の秦は「来年は必ずリベンジする」と力強く語った

男子
PTWC:1位 ヘールト・スキパー(オランダ)、2位 ジョバンニ・アケンツァ(イタリア)、3位 アレクサンドル・パビザ(フランス)
PTS2:1位 ステファン・バイエ(フランス)、2位 バシリー・エゴロフ(ロシア)、3位 ジョフレ・ベルシ(フランス)
PTS3:1位 二コ・ファン・デル・ブルフト(オランダ)、2位 ビクトル・チェボタレフ(ロシア)、3位 ホアキン・カラスコ(スペイン)
PTS4:1位 アレクシ・アンカンコン(フランス)、2位 王家超(オウ・カチョウ/中国)、3位 宇田秀生
PTS5:1位 ステファン・ダニエル(カナダ)、2位 クリス・ハマー(アメリカ)、3位 アレキサンダー・ヤルチック(ロシア)
PTVI:1位 ホセ ルイス・ガルシア セラーノ(スペイン)、2位 ジョナサン・ゴーラフ(オーストラリア)、3位 ブラッド・スナイダー(アメリカ)

スキーと二刀流の佐藤は激戦のPTS5で5位に

text by Mina Takagi
photo by X-1

2019 ITU世界パラトライアスロンシリーズ横浜大会、それぞれの涙と笑顔

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